新鮮な野菜や果物が食卓まで届く。当たり前と思っていたくらしが危ぶまれている。働き方改革の推進や人手不足の結果、物流の停滞が懸念されるためだ。どんな対策が考えられるのか。荷物の足元の「パレット」に注目し、3回にわたり考える。 (藤原啓嗣)

フォークリフトでパレットを交換する作業員=東京都大田区の大田市場で

 積み上げた段ボール40箱の天地を特殊なフォークリフトでひっくり返し、底に敷いていた樹脂製パレットを木製に替えた。箱の中には佐賀県産のタマネギが入っている。  東京の大田市場。ここに拠点を置く卸売会社「東京青果」は毎日200枚を超えるパレットを交換する。産地がレンタルした樹脂製を回収し、自社で確保した木製パレットで小売店の拠点に運んでもらう。  国内最大手の同社は、全国の産地から1日2千~3千トンの青果を受け入れている。トラック運転手の時間外労働が規制されることに伴い、物流が滞る可能性が指摘される「2024年問題」には、18年から対策を講じてきた。パレットの使用を産地に働きかけてきたのもその一つ。国土交通省の調査では、運転手の約12時間の平均拘束時間のうち、運転は約7時間で、荷を積み降ろしする「荷役時間」が1・5時間を占める。  パレットを使えば荷役を効率化できる。キャベツが10キロ入った箱千個をトラックに積むには手作業なら2時間かかるが、パレットとフォークリフトを使えば4分の1の30分に短縮できた例もある。ただ、青果物流には十分活用されてこなかった。パレットの分、積載量が減るといった理由もあり、荷台にじかに積むケースが目立った。  効率的にパレットを活用する典型が、人気の会員制大型量販店コストコだ。納入業者にはすべての商品を自社指定のパレットで納品してもらい、フォークリフトでそのまま売り場へ。在庫もパレットのまま売り場の棚で管理する。  運営するコストコホールセールジャパン(千葉県木更津市)の担当者は「商品を積み替える必要がなく、時間や労力を削減できる」と利点を強調する。敬愛大の根本敏則特任教授(交通経済学)は「コストコは大量生産、大量消費の米国的な物流を実践している。消費量自体が少ない日本では、業者間の競争が激しく、手積み手降ろしの仕事も引き受けざるを得なかった」と指摘する。  レンタルパレットの回収拠点が、卸売市場などに限られるという課題もある。スーパーの物流センターといった場所で回収する仕組みが完全には整備されておらず、「産地→市場→小売店」を一つのパレットでつなげていない。東京青果は、積み替えの負担を自社で背負い込むことで、これを実現している。同社商品センターの庄内弘志部長(55)は「持続的な青果流通を守るためだ」。自社で確保した木製パレットが戻ってこなければ、社の負担で買い足すことになる。  レンタル業者も改善の必要性は認める。業界大手の日本パレットレンタル(東京)の担当者は「市場の先でパレットを回収するネットワークの拡大に努めたい。そのためには関係者の理解や協力が欠かせない」。問題は必要な費用を誰が負担するのか。根本特任教授は「青果の物流でパレットを活用するにはレンタルが有効。関係者で料金負担のあり方や返却のルールを話し合うべきだ」と話している。

<パレット> 物流で使用される板状の台。国内に5億~6億枚が流通しているとみられる。複数の荷を載せてフォークリフトなどで運べば、積み降ろしの効率化が期待できる。材質や大きさはさまざま。パレットを使った物流を拡大させるため、国はパレットの規格の統一化に向けて検討を進めている。




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