厚生労働省は3日、公的年金の将来の見通しを示す財政検証結果を公表した。経済成長が現状に近い場合でも、33年後の年金受給額は現役世代の手取り収入に対して5割を維持する見通しが示された。ただ、給付水準は現在よりも約2割目減りする。現状より高い経済成長を達成できれば、約1割減で抑えられる。女性の労働参加が進むなどし、前回の2019年検証から水準はやや上がった。制度の支え手となる人口構成は、在留外国人の増加で少子化を補う形とした。
財政検証は5年に1度、年金財政の健全性を確認し、100年先までの見通しを点検するために実施されている。公的年金制度では、保険料の上限を決め、その範囲内で年金を給付する。現役世代の減少や平均余命などを勘案し、年金を減額する措置(マクロ経済スライド)が一定期間導入されている。
政府は、モデル世帯(40年間平均的な収入で会社勤めした夫と専業主婦)で、現役の手取り収入に対する年金支給額の比率を示す所得代替率が50%超確保できるよう目指している。24年度のモデル世帯の年金額は厚生年金と国民年金(基礎年金)の合計で月22万6000円。現役の平均手取り月額は37万円で所得代替率は61・2%。19年度より0・5ポイント下がった。
財政検証では、物価や賃金の上昇率などが異なる四つの経済前提を設定。合計特殊出生率や在留外国人数、就業者数なども加味した。経済成長が現状に近い「過去30年投影ケース」は物価上昇率を0・8%、実質賃金上昇率を0・5%などと設定。57年度にマクロ経済スライドが終了して所得代替率は50・4%で下げ止まる。
57年度の現役の平均手取り収入は月41万8000円(24年度の物価に換算)。年金額は月21万1000円(同)で、現役世代の収入は伸びるが、年金額は抑えられている。
基礎年金だけの世帯は厚生年金よりマクロ経済スライドによる減額期間が長い。24年度の所得代替率は36・2%だが、57年度は25・5%で約3割目減りする。
現状より高い経済成長が必要な「成長型経済移行・継続ケース」は物価上昇率は2%、実質賃金上昇率を1・5%と見込んだ。所得代替率は37年度に厚生年金と基礎年金合わせて57・6%で下げ止まる。
世帯構成や働き方の多様化を踏まえ、男女別1人当たりの平均年金額(月額)の見通しも公表。24年時点では男性が14万9000円、女性は9万3000円だが、59年には男性14万7000円、女性10万7000円と男女差が縮小する。
ただ、いずれのケースも合計特殊出生率を1・36(70年時点)と見込んでおり、23年の1・20よりも高い。見込み通りにならなければ所得代替率などは下方修正を余儀なくされる。
政府は今回の結果を踏まえ、制度改革に着手し、来年の通常国会に関連法案を提出する。【宇多川はるか】
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