認知症が原因で行方不明になる人が増え続けている。警察庁によると、2023年に届け出があった人は1万9039人に上り、10年前の約1・8倍になった。
この結果をどう受け止めればいいのか。
認知症介護研究・研修東京センター(東京都杉並区)の永田久美子副センター長は「人数の多さに目を奪われがちですが、警察庁の発表を踏まえてどう動き出すかが大切。一人一人の認知症の人が安心して外出できるまちになっているか。ともに考えるきっかけにしてほしい」と呼びかける。
永田さんはこの課題に長年取り組んできた経験を踏まえ、「最も大切なことは、今暮らしている認知症当事者一人一人を起点に考えることだ」と強調する。本人が安全に外出する力を伸ばしたり、外出時の本人のバリアー(障壁)を取り除いたりすることが、行方不明を直接的に減らす鍵になるという。
やってはいけないのが「認知症だから危ない」と外出を制限してしまうことだ。それにより、本人は不安を強め、心身の力が急速に低下する。
望んだ外出を続けられることは、安心と活力を保って生きるために不可欠なことだ。「地域でのネットワーク作りや全地球測位システム(GPS)といった捜索の機器も重要だが、行方不明対策ではなく、その人がどうすれば安全に外出できるかを一緒に工夫してほしい」と永田さんは言う。
近年は道が分からなくなった時に備えてあらかじめ行き先を書いたカードを示して周りの人に尋ねるなど、本人たちがさまざまな工夫を重ねている。一人で出かけることが難しくなっても家族以外の地域の人がチームを組んで支え、外出を続ける人も増えている。
永田さんは今回公表された1万9039人の中には何度も行方不明になっている人もいるとみている。
保護した警察が本人や家族の了解を得て行政の担当者につなぎ、関係者がすぐに本人や家族の支援に入ることで安全な外出を支え、行方不明の再発を防いでいる地域もある。「地域で支え合う仕組みは増えているので、そこにつなげるだけでもより良く過ごせる人がたくさんいる。家族だけに頑張らせないで、地域のお店や企業も一緒に安全に外出できる支援を強化していくことが急がれる」と永田さんは指摘する。
今年は認知症の人が尊厳と希望を持って暮らせる共生社会の実現を目指した「認知症基本法」が施行された節目の年でもある。永田さんは「安全や自由を守りつつ望む外出が続けられるまちをともにつくる。その本格的なスタートの年にしてほしい」と願っている。【銭場裕司】
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