イチイチ対応の4キロ用の箱(左)と5キロ用を比べる宮崎裕也さん=浜松市浜名区のJAみっかび柑橘選果場で
浜松市特産の「三ケ日みかん」の段ボール箱が、2021年から一回り小さくなった。5キロ用が4キロに、10キロ用は8キロになった。JAみっかび(同市浜名区)が、出荷で使うパレットを国が薦める110センチ四方の樹脂製のレンタルパレットに変えたため。業界では「イチイチ」と呼ぶ。 以前より少し小さく、箱の大きさを変えずに同じ数を載せると、新たなパレットから箱の一部がはみ出し、運搬中にミカンが傷んだり、荷崩れしたりする恐れがあった。 同年に完成した選果場も「イチイチ対応」。荷受けから選果、出荷までをほぼ自動化し、仕分けや箱入れのラインの幅や作業スペースの広さをこのパレットに合わせて設計した。 1世帯の人数が減る傾向にある中、1箱当たりの量を減らして値段を下げる狙いもある。同JA柑橘(かんきつ)販売課長の宮崎裕也さん(41)は「10年後にパレットのサイズを変えようとしても、簡単には対応できないかもしれない」と強調する。現在、選果場からは年間3万トンを出荷している。 国土交通省が設置した「パレット標準化推進分科会」は6月、有識者や物流業界の関係者らによる議論をまとめた報告書「最終とりまとめ」を発表。イチイチを標準とし、各事業者がレンタル会社から借りる仕組みを推奨した。国内で生産されるパレットの3割に迫るイチイチ。活用が広がれば、パレットの回転率も上がり効果的な物流が実現できるという。 ミツカングループで、国内での調味料や納豆の製造販売などを手掛けるミツカン(愛知県半田市)は、他の食品関連会社などと年間延べ4100万枚のイチイチを共同利用している。納品先では、レンタル会社が一括して定期的に回収。同社物流管理課長の荻野健一さん(56)は「物流を担う人たちは限られている。国内全体で荷役の効率を高める方法を考えるべきだ」と話す。 だが、パレットの標準化は1960年代にも議論されたが、実現できていない。分科会の報告書にも「旧(ふる)くて新しい課題」とある。複数の規格が活用されていることなどが理由だ。 例えば、JA全農長野は、ナシやリンゴの出荷の一部に90センチ×110センチの樹脂製パレットを使用。イチイチに統一するには、JAみっかびと同様、箱の大きさの変更や、施設の改修が必要になる。パレットのレンタル費も負担になる。JA全農長野の販売流通企画課長の伊藤智康さん(54)は「荷の特性に合わせて複数の規格を用意した方が、各産地が歩み寄ってパレット化は進みやすいのでは」と独自規格への理解を求める。 分科会の座長を務めた流通経済大の味水佑毅教授(ロジスティクス)は「社会全体でパレットを回すために、農産物は標準パレットを導入してほしい」と訴える。その一方、「青果は物流コストを転嫁しにくい商習慣があり、改める必要がある。消費者にも、物流を持続可能なものにしていくため、適正な価格での売買が必要という意識を持ってほしい」と求める。 (この連載は、藤原啓嗣が担当しました。)
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