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過去最多となる56人の立候補者で争われた東京都知事選。7月7日に投開票が行われ、現職の小池百合子氏(71)が、291万票を得て、3選を果たした。次点には、前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏(41)が165万票で続き、立憲民主・共産両党の支援を受けた前参議院議員、蓮舫氏(56)の128万票を上回る結果となった。

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1)蓮舫氏「反自民・非小池」戦略を打ち出すも不発

ANNなどが行った出口調査(都内120か所・投票を終えた有権者約7200人に対し実施)の中間集計の段階でも、小池氏がおよそ4割から支持を集め、圧勝との結果が出ていた。続く石丸氏は2割強の支持を集め、蓮舫氏はおよそ2割から支持を集めたものの届かなかった。

この結果を受け、久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、以下のように分析をした。

今回の都知事選で一番の注目は、石丸伸二氏が20%強の票を集めたという点だ。保守対リベラル、あるいは、党対決というような構造が各候補者の背後にあるとされていたが、今回の選挙結果から見えたのは、すべての政党の支持層が、岩盤足り得る盤石な組織票として機能したわけではないということだ。公明党は、基本的には小池氏の岩盤支持層であり、共産党は蓮舫氏の岩盤支持層だ。しかし、東京の場合は、地方のように地元での強いつながりはなく、「どちらかと言えば立憲支持」「どちらかと言えば自民党支持」というように、強固な岩盤ではなく、崩れやすい砂礫のような層がいる。そのような、どちらかと言えば保守的無党派あるいは、保守的リベラルという層の存在が、石丸氏への支持の背景にあると考えられる。 今回の都知事選は、これまで「政党間対決」と言われていたものが、実際上は「個人対個人の戦い」であることを表した格好だ。小池氏と蓮舫氏はそれぞれ、公明党と共産党という岩盤支持層は持っていたものの、最終的にはどちらがより好きか、嫌いかという部分で、多くの票が割れたように思う。双方ともに、経験値も知名度も十分にあることで、逆に新鮮味がなく有権者に飽きられてしまった部分も否めない。政策的な差異はあれど、ある意味似た、個性の強いキャラクターである分、両名どちらも支持したくない、という層の票が石丸氏に流れたということだろう。

自身も衆議院議員を2期経験し、政界に詳しい若狭勝氏(弁護士/元衆議院議員)も以下のように分析した。

小池氏は、この知事選は実質上、蓮舫氏との戦いになるという土俵を描いていたと思う。ところが、ふたを開けてみれば、戦いの土俵に上がっていたのは石丸氏だった。小池氏にとって、対蓮舫氏の戦いについては勝ったという達成感はあると思うが、一方で、石丸氏への支持は、小池氏が無党派の声を拾いきれなかったことの表れでもあり、その点を鑑みると、今回の戦いに見る意議も変わってくるのでは。この選挙戦は、国政も含め、今後どのように選挙戦を戦う必要があるのかということを示唆する、試金石となり得るものだ。

末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、蓮舫氏の票が伸び悩んだ背景を以下のように分析した。

蓮舫氏の持ち味の一つに攻めの力があるが、その攻めの力は野党方では威力を発揮するものの、行政のトップとしてはどうだろうかという声が選挙中盤から聞こえるようになっていた。しかし現職の小池氏では目新しくない。そこに、ネットの中で、まだあまり手垢のついていない感のある石丸氏が登場し、新しい形のリーダーということで期待と票を集めた。石丸氏の在り方は、選挙への新しい関わり方として注目だ。今回の選挙戦は、ネット世界が世論形成に大きな影響力を持っているということを改めて感じさせたものだったと思う。

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2)無党派層が支持したのは… 「政治とカネ」問題で投票行動は?

2)無党派層が支持したのは… 「政治とカネ」問題で投票行動は?

小池百合子氏、蓮舫氏、石丸氏には、どのような人たちが投票したのか、出口調査をもとにさらに分析する。

ANNなどの出口調査によると、小池氏は自民党支持層のおよそ7割、公明党支持層の8割を固め、かつ、無党派層の3割から支持を得た。年代別では50代以上を中心に幅広い世代から支持を得ている。一方の蓮舫氏は立憲民主党や共産党の支持層のおよそ7割をまとめたものの、無党派層の支持は広がらず10%台にとどまった。また、女性からの支持は小池氏の半分以下となっている。無党派層では、石丸氏への支持が最も高く、30%代後半となり、若い世代を中心に支持を集めて10代から30代ではトップに立った。

この無党派層の動向を受け、久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、以下のように分析した。

無党派層というのはおそらく全体の4、5割程度で、多くは既存の政党や政治家に対して不満を持っている層だ。今回、裏金問題に象徴される、政治に対する一種の諦めがマグマのような大きな衝動となったことで無党派層が動き、石丸氏の支持拡大につながった。
蓮舫氏は、選挙戦の中で、国政の裏金問題を引き合いに出すことで、裏金問題の自民党、そこに近い小池氏との対決構造を描こうとした。しかし、その戦いの土俵をうまく描くことができなかったことが敗因の一つではないか。

今回の選挙の動向として、裏金問題は有権者の投票行動にどのように影響したのか。
投票の際に、裏金問題を重視したかどうかという、出口調査での問いに、「大いに重視した」・「重視した」との回答が多数を占めた。しかし、「大いに重視した」と回答した人の投票先は、上位3人の間で割れている。

若狭勝氏(弁護士/元衆議院議員)は、自民党の裏金問題が尾を引く中、こうした調査結果を以下のように分析する。

裏金問題を筆頭に、知事選前の自民党批判の流れは、今回の選挙で重視されるポイントではあったと思うが、自民党との関係性という点だけが投票行動に影響したわけではない。小池氏の勝因は現職ということに加え、蓮舫氏と同じ土俵では戦わないという戦略の妙にあったと思う。そういったいわば「逃げるが勝ち」という戦略を、もともとの支持層を逃さなかった。とはいえ、今回無党派層の多数の票が石丸氏に流れている情勢を見ると、自民党がステルス支援に徹し、自民党の団体票が小池氏に入ったことも、小池氏当選の大きな力になったのではないかと思う。

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3)都知事選と都議補選…今後の国政に影響は?

3)都知事選と都議補選…今後の国政に影響は?

都知事選と同日、東京都議会の補欠選挙が9選挙区で投開票だった。自民党はこのうち8選挙区で候補者を擁立したが、当選は2議席のみ。(板橋区と府中市)

放送時点で開票結果はまだ明らかになっていなかったが、ゲストの久江雅彦氏(共同通信特別編集委員)は、「都知事選よりもむしろ都議補選こそが今後の国政選挙を占う、重要なバロメーターになる」と指摘していた。

合わせて久江氏は、今回の知事選を通じ、選挙戦のあり方にも疑問を呈した。

民主主義というのは、本来負けた人や少数の意見もできるだけ汲んで、ものごとを決めていくということだ。今回の知事選を見ていると、街頭演説時のヤジの大合唱など、ネット世界の広がりと相まって、分断と対立が非常に進行しているという印象を受ける。分断と対立ではなく、相手の意見をしっかりと聞くようなあり方がもっと必要なのではないか。これから続く、自民党総裁選、衆院選を経て、さらにこの分断と対立が日本国内で進行していく可能性があることを、私は非常に危惧している。

一方、若狭勝氏(弁護士/元衆議院議員)は、今回の都知事選の結果が野党第一党の立憲民主党に及ぼす影響を以下のように指摘する。

個人対個人の戦いとは言いながら、事実上蓮舫氏は「立憲の顔」として選挙の舞台に立っている。その蓮舫氏が負けたとなれば、このところの地方選で勢いづいていた立憲民主党も、今後の選挙戦は必ずしも順風ばかりではないという現実を突きつけられたということになる。立憲民主党にとって、今後の方策をいま一度、見直す選挙になったことは間違いない。総選挙にあたっては、野党の選挙協力が必須であるということも見えたので、今回の結果は、今後の選挙戦に少なからず影響を与えるものだと思う。

末延吉正氏(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)は、選挙後の自民党に新たな対応を求めた。

自民党は「政治とカネ」の問題を、岸田総理が判断を誤り、政局にしてしまった。ここで本当の反省と、出直しの方策を示さないと、日本の政治が壊れかねない。

<出演者>

若狭勝(弁護士。83年に検事任官。元東京地検特捜部副部長。衆議院議員を2期経験後、政界の引退を公言)

久江雅彦(共同通信特別編集委員。杏林大学教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評。新著に『証言 小選挙区制は日本をどう変えたか』)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。永田町や霞が関に独自の情報網を持つ。湾岸戦争など各国で取材し、国際問題に精通)

「BS朝日 日曜スクープ 2024年7月7日放送分より」

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