投資はギャンブルではないと思っていた
TKOとして芸能活動を再開してから、まず立ち上げたのがYouTubeの「TKOチャンネル」です。いまだに、いろいろと作法を学びながら試行錯誤を重ねていますが、以前から親しくつき合ってきた芸人さんと「相互乗り入れ」のコラボを数多くやらせていただきました。
そんな中、勝俣州和さんのチャンネルでこんな意味の指摘をされました。
「投資なんてギャンブルなんだから、それが失敗したからといって、あれこれいわれるのはおかしい。木本くんだって責任取る必要ないじゃん」
その言葉に、僕はハッとしました。
そして思い知らされました。投資とギャンブルが傍からは同じように見えるのだと。僕は、FXや不動産への投資をギャンブルとは考えていなかったからです。
騒動になってあちこちから指摘を受けましたが、僕がお金を預けた人間は、金融商品取引法の届出登録すら行っていませんでした。違法な無登録業者だったのです。恥ずかしいことに、僕はそうした投資に関する法律すら確認をしていませんでした。
それを考えると、勝俣さんのご指摘は至極ごもっともで、「ぐうの音」もでませんでした。
すべて後出しの「いいわけ」ですが、僕はギャンブルにはまったく興味がありませんでした。あるロケで韓国の釜山に訪れたときも、取材を終えた後に、「チップを渡しますから、カジノで遊んでみたらどうですか」と誘われました。僕はピクリとも食指が動くことはありませんでした。
芸人としての将来の不安
そんな僕が、投資にのめり込んでしまったのは、「ビットコインバブル」を経験したからです。芸人としての仕事の先行きに不安を覚えた僕は、「もっと投資をしよう」と考えました。芸人としてそこそこ忙しくしていましたから、時間をかけてじっくりと取り組めないと思い込み、そんな道に走ってしまったのです。
また、暗号通貨の取引に失敗した現実が、僕の心に火をつけました。自分が子どもの頃からあった「一番になってやる。誰よりも詳しくなってやる」という負けん気が発動したのです。本も何十冊も読み込みましたし、プロの話も聞きました。投資に興味を持つ仲間たちと”研究会”を開いていて、そこで身につけた知識を披露すると、
「木本さんの知識はすごいですね。プロ並みじゃないですか」
などと、おだてられて悦に入っていたところがあったのです。
そうして興味を抱いたトピックに関しては徹底的に研究してしまう僕でしたが、仲間たちと投資の話をしているのが、「楽しいし、おもしろい」世界だったのです。ギャンブルと同様に、ネットやITの世界にはもともと興味はありませんでした。
でも「楽しみながら、お金が増えるなら最高じゃん」という気持ちになっていて、自分がのめり込んでいるものが「ほとんどギャンブル」であるとは気づけませんでした。
いまさらながら振り返ると、「投資に関心」を向けてしまったのが、失敗の分岐点でした。なんども強調しているように、僕は興味がないことがらには関心の目を向けることがありません。でも、自分の中で「投資という扉」が開いてしまった。
そこに将来への不安。大御所芸能人でも投資をしているという事実。そして、僕自身が”研究会”の中心でいる心地いい状況。そんなものが複合的に絡み合って、「投資というギャンブル」に僕をのめり込ませたのだと思います。
さらに突き詰めると、自分が扉を開いたことにより、本来ならば呼び込むことがなかった人たちを引き寄せてしまったのです。
「うまい話には裏がある」
「おいしい話にはご用心」
投資サギに遭わないための格言です。僕だって、それくらいは知っています。ところが、投資に熱を上げているとき、そんな格言はこれっぽっちも頭に思い浮かびませんでした。
僕が投資に興味を持つ以前に戻れるのならば、
「じぶん、ギャンブルには興味なかったのちゃうんかい!」
と、全力で止めると思います。
「信用されること」がモットーだった
「報道されると、いろんな誤解を生むんやろな」
投資トラブルが報道される直前、僕はそんなふうに思っていました。
その結果、信用を失うだろうと。
僕は、
「信用されること」
「人から信用を失うのがなによりも一番怖いこと」
をモットーに生きてきました。それは父からも口すっぱくいわれてきたことでした。
さらに、”説教キャラ木本”は、周りの人間にも「人から信用されるのが大事やで」と声を大きくして伝えてきた人間だったのです。
投資トラブルによって大暴落した信用
その自分が、多くの人からの信用を失う過ちを犯しました。
僕はそのとき、芸人・TKO木本武宏は「詰んだ」と思いました。それ以上に人間・木本武宏の信用が「地に落ちた」と感じました。
小学校のときからリーダーシップを発揮して「これはおもろいで」と周りにたくさんのものごとを”推し活”してきました。芸人になってからも、それは続いていました。
家電芸人として、「木本きっかけで売れた」「木本きっかけで芸能界に浸透した」アイテムがいくつもありました。それが可能だったのは、僕の周りを巻き込む話術と、「木本がいうことなら間違いない」という信用があったからにほかなりません。
それが、投資トラブルによって大暴落したのです。
「人から信用されること」の裏返しに、「人を信用すること」があります。そこでも僕はしくじってしまいました。FXの運用を任せていたAという男とは、家族ぐるみでつき合っていたつもりです。彼だけでなく、母親とも電話をする仲でしたから。僕としてはファミリーに裏切られるのは完全に想定外。こちらはファミリーと思って信頼していましたし、向こうも同様だと疑いもしませんでした。そこが僕の甘さです。
また、別の意味で「ああ、そうなんや」と思い知らされたことがありました。
Aに逃げられた後、どうやってことを収めるか仲間たちと話しているときでした。ある人物が僕にこう詰め寄りました。
「だって、私は木本さんを信用してお金を出したんです。木本さんは、その信用を裏切った。木本さんがお金を返済するのはとうぜんです」
僕に反論する気力はありませんでした。
億単位の借金を抱えたこと以上の「喪失感」
まだ暗号通貨に手を出している時代、仲間の一人が、いわゆる「草コイン」と呼ばれる、海のものとも山のものともつかないような怪しい暗号通貨に手を出していました。別ルートから聞き込んだ情報を鵜吞みにして買ったようでした。僕は彼に本気で怒りました。
『おいしい話なんてこの世にはない どん底を見たベテラン芸人がいまさら気づいた56のこと』(KADOKAWA)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします「そのコインはあかん、ビットコインに替えとき」とアドバイスをしました。「仲間の誰にも損をさせたくない」からです。いま思えば正義の味方ヅラをしていて恥ずかしいのですが、仲間たちからは感謝されました。そうやって、ワイワイガヤガヤ楽しみつつ投資の知識を共有しながら、みんなで「儲ける」ことを夢想していました。その過程で、僕自身の信用も高まっていったと感じていたのです。
一歩一歩、地道に蓄積していた「木本武宏の信用」が、失われてしまった。これはどんなことよりも、心にダメージを与えました。
億単位の借金を抱えたこと以上の「喪失感」です。
「人生で一番大切なものを失くしてしまった」
僕の頭の中をそのフレーズがグルングルンと回っていました。
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