日本語教師の資格取得を目指す「50代男性」が、ここ数年で増えている。日本語を学ぶ外国人留学生の増加を受け、今年4月に国家資格に「格上げ」されたことが大きな理由とみられる。定年後のセカンドキャリアを見据え、会社勤めとは異なる「やりがい」を求めて勉強に励む人もいるようだ。

 「私はダイエット中なので甘いものは食べません。甘いものが嫌いな『わけではありません』」

 日本語の「わけではありません」の使い方を学ぶ授業。千葉県市川市の土橋隆夫さん(55)は昨年、32年間勤めたカゴメを早期退職し、都内の日本語学校の非常勤講師になった。

 大学時代に米国に語学留学し、いつか外国人に日本語を教えたいという「夢」を持った。40代で両親が他界し、50代で離婚。「一人」になったのを機に、夢を実現したい思いが膨らんだ。

 人生100年時代というが、「健康寿命」は男性で72歳余。会社勤めは長くても55歳までと決め、資格取得学校に通った。

 会社の早期退職制度に手を挙げたところ、退職金に多額の割増金が加算された。経済的な不安が減ったことも背中を押した。

 週に2日教壇に立つ。一コマあたりの給与は1900円に過ぎないが、「お金」で選んだセカンドキャリアではない。

 「教えて、でも伝わらなくて、最後に理解してもらったときのうれしさ。この手ざわりは、会社勤めでは得られなかった」

 日本語教師は今年4月に「登録日本語教員」という国家資格になった。外国人留学生の増加に対応するため、国として資格の魅力を高め、不足する日本語教師のなり手を増やす狙いがある。

 資格取得スクールのヒューマンアカデミーによると、今年6月時点の50代の受講生数(男女計)は、3年前の約2倍に増えた。

 「中でも目立って増えたのが男性。人生100年時代や学び直しが意識される中で、国家資格となり目が向いたようだ」と担当者は話す。

 法政大大学院の石山恒貴・政策創造研究科教授は「日本語教師の仕事に、会社勤めとは異なるやりがいを見いだしている人もいるのでは」と見る。セカンドキャリアの選択が「人生の意義や目的にかなっているか」を大切な判断基準にしてほしいとアドバイスを送る。(本田靖明)

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