低酸素脳症となり、2021年1月に亡くなった女児=両親提供

 一宮市立市民病院(愛知県一宮市)に入院していた女児が退院後に窒息状態となり、意識を回復しないまま3歳で死亡したのは病院側の対応に問題があったとして、女児の両親が市に1億1230万円の損害賠償を求めた控訴審判決で、名古屋高裁(長谷川恭弘裁判長)は18日、両親が敗訴した1審判決を変更し、病院側の過失を認め市に計約7500万円の支払いを命じた。【道下寛子】

 判決によると、女児は2018年2月に誕生。喉頭の組織が軟弱で、気管が塞がりやすく呼吸がしづらい「喉頭軟化症」と診断され、呼吸を補助する器具「気管カニューレ」を装着していた。

 同年7月下旬に別の病院から一宮市立市民病院に転院。その後、8月中旬に同病院を退院するまでの間に器具が外れる事故が3回起きていたが、両親に具体的な説明をせず、緊急性の高い呼吸悪化が生じた場合の対処法や気道確保の重要性についても説明、指導を行わなかった。

 女児は同病院を退院した翌日、何らかの原因で器具が閉塞(へいそく)して低酸素脳症となり、意識が戻らないまま21年2月に死亡した。

 1審判決は病院側の対応に問題はなかったとして請求を棄却したが、2審判決は医師らが両親に緊急的な事態に即した指導をする義務があったことを重視。長谷川裁判長は「療養指導義務を怠った過失があると言わざるを得ない」と指摘し、両親が気道確保の重要性を認識した上で救命措置を施していれば「低酸素脳症を回避することができ、死亡することもなかった」として過失と死亡との因果関係も認めた。

 判決後、女児の父親は「原因が分からなくて、自分たちに原因があると思っていた。自分たちを責める気持ちでいっぱいだった。今回の判決で病院の責任を認めていただいて、娘の無念を晴らせたことでほっとした」とコメントを発表した。

 両親の代理人を務める森下泰幸弁護士は「療養指導義務違反を指摘する判決はしばらく出ていなかったとみられる。意義のある判決だ」と強調。気管カニューレが外れる事故は全国で相次いでおり、「今回の判決を受け、退院時には必ず救命方法などの指導を全国の病院で徹底してもらいたいし、指導・説明に対するガイドラインなどができればいい」と訴えた。

 一宮市立市民病院は「判決文が届いていないので、現時点ではコメントを差し控える」としている。

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