福岡市内の自宅兼料理スタジオで、今も月4回、教室を開いていて、県内外から約90人が通ってくださっています。ほかに本の執筆や撮影、講演会、新聞や雑誌の連載も。毎回どんなレシピや話題を紹介しようかと、寝ても覚めてもそのことばかり。付箋をバッグに入れていて、何か思い付いたら書き留めています。  教室などで使う食材の買い出しは、スタッフに頼まず、自分で行くようにしています。そうすると売り場の様子も分かるでしょ。自宅から歩いて食料品店やデパートを回ると、だいたい8千歩に。さすがに今は、周囲の勧めで帰りだけタクシーに乗りますが、以前は10~15キロの荷物をかついで歩いていたんですよ。  私の料理研究家としての人生は、27歳のときに始まりました。夫の勤務先の社宅で、日本人の同僚と結婚した米国人の女性に、家庭料理を教えたことがきっかけ。その後も夫の転勤で引っ越した先々で料理教室を開きました。1人から始まり、いつの間にか大勢になって。食は人と人をつなぐと感じました。

◆レンジ使い 健康に

 転機は40歳過ぎ。母校で栄養指導実習講座を担当していたころ、糖尿病を改善する食事の開発に取り組む中で、電子レンジで調理することを思い付きました。当時レンジはまだ食事を温めるだけで、調理で使うことは知られていませんでした。レンジなら、油控えめで栄養バランスよく、時短で料理ができる。これだ!と思いました。  エビチリやチンジャオロースなどをレンジで調理し、学生に出すと「おいしい!」と声が上がりました。レンジの仕組みや使い方を研究し、家庭料理のレシピを考案。地元の新聞で連載していたコラムが出版社の目に留まり、関連本を初めて出しました。  講演会などでいつも伝えているのは「ちゃんと食べて、ちゃんと生きる」ということ。人の体は古くなったからといって、新品に換えることはできません。人に世話をかけたくないと思うのであれば、毎日3食、こつこつと食べて、体を維持することが大切です。  特に年を重ねると消化吸収する力が落ちてきます。私はおやつとしてチーズやちくわ、ソーセージなどを常備して、タンパク質を小まめに取っています。外出時には市販されている大人のための粉ミルクをバッグに入れておき、例えばコーヒーを飲むときに足すようにしているんです。  実は昨年夏、スタジオ内で勢いよく転んで、大腿(だいたい)骨を折ってしまいました。ただ通常は回復に時間がかかるようですが、私は翌日からリハビリを始め、10日後には退院。頼まれていた講演会にも出かけました。周りには驚かれましたが、今振り返ると、きちんと食べていたことが大きかったのではと思っています。

◆夢は 食堂開くこと

 好きなことをするのも大事ですよ。趣味でも何でもいいので、自分が大好きだと思うことに、毎日、ぜいたくに時間をお使いになったらいかがでしょう。私のこれからの夢は、昼間だけ開店する「村上食堂」を開くこと。10年前に夫を亡くしてから考えるようになりました。最近は1人暮らしが増えていて、誰とも話すことなく1日を過ごしている方も少なくないのではと想像します。食堂でお昼を食べながら、おしゃべりをして笑顔になってもらえたらと思っています。 (聞き手・川合道子)

<むらかみ・さちこ> 1942年、福岡県生まれ。管理栄養士、福岡女子大客員教授。油控えめで栄養バランスのよい家庭料理レシピを次々と考案し、「電子レンジ調理の第一人者」と呼ばれるように。学校などでの食育活動にも力を注ぐ。著書は570冊以上あり、近著は「料理家村上祥子82歳、じぶん時間の楽しみ方」(エクスナレッジ)。




鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。