周辺の再開発が進む長崎・JR新大村駅のすぐそばにコミュニティ拠点がオープンした。母と娘が営むサードプレイスだ。育児に仕事に忙しいママがほっと安らぐ時間を過ごせるよう、人とまちをつなぐ癒しの空間を目指し、働く場としての提供も視野に入れている。

癒しの空間は「誰もがくつろげる場所」

2024年5月、JR新大村駅そばにコミュニティ拠点がオープンした。

この記事の画像(15枚)

その名は「キイト舎」だ。

この日は子供たちが英語に触れながら手遊びや絵本を読むイベントが開かれ、4組の親子が参加した。「コロナ禍の出産で家に子供と二人きりでさみしい時期が長かったが、こういうイベントに参加すると子育てが前よりも楽しい」と参加者は笑顔で話す。

コミュニティ拠点「キイト舎」を運営するのは石川雅美さんだ。関東出身で3年ほど前に大村に移住してきた。家庭や職場、学校以外の第3の居場所=サードプレイスとして、人と人とをつなぐ場所を作ろうと取り組んでいる石川さん。今回のイベントも移住者のつながりがきっかけで実現した。

家事に育児に仕事に忙しい毎日を送るママたちに、少しの間だけでもほっと安らぐ時間を過ごしてほしい。石川さんは「誰もがくつろげるような空間づくり」にこだわっている。

また立ち寄りたい場所

オープン前の3月、地元の工務店の協力を得てワークショップを開いた。

オープン前に開かれたイベントにも意味を持たせている

施設の壁にみんなで「漆喰」を塗るイベントだ。漆喰は湿度の調整や消臭などに優れていると言われる。貝殻や海藻などが入っていてほんのり磯の香りも漂う。この日は大村市の内外から親子などが参加し、慣れない手つきでコテを動かしながら半日かけて仕上げた。参加者の多くが初めての体験だ。

参加者は「子供も一緒にできたのがよかった。自然にも体にも優しいものを身近で体験できるのはありがたい」と満足していた様子だった。オープン前からこの場所に関わりを持つことで、地元・大村以外の人も訪れる理由につながるのではないか。ワークショップを開いた石川さんの狙いはここにある。

大村市外からの参加者も

ワークショップの参加者の中には西海市から訪れた人もいた。西海市は大村から車で1時間ほどの場所だ。参加した男性は「オープン前だが思い出がすでにできているので、地域と人をつなげる意味があるのかなと思った。また立ち寄りたい場所になった」と語っていた。

西海市在住の二人はオープン後に仕上がりを確認に訪れた

オープンから1カ月、西海市在住の2人は完成した施設を訪れた。漆喰を塗った部屋の仕上がりを確認し、「完成してまた来られるのがうれしい」と語った。

母娘で営む「人をつなぐ」空間

「拠点を通して人と人、地域と人をつなぎたい」との思いは、屋号「キイト舎」にも込められている。

和ろうそくの芯にも「生糸」が使われている

石川雅美さん:
大村純忠の「純」を訓読みすると「きいと」だと聞いた。和ろうそくの芯にも生糸を使っていて欠かせない。「キイト」は“色んなものをつなぎ合わせる”という意味も込められると思った。

長女の慧真さんが店を手伝っている

この春、高校を卒業した長女の慧真(えま)さんは、3年間調理科で学んだ経験を生かし、主にカフェで飲み物や軽食の提供を担当し、母親を支えている。

テイクアウト用のタンブラーのイラストやチラシなども慧真さんが手掛けている。

慧真さんは「最初は大学に行きたいなと思っていたが、大学に行って勉強するより、絵を描いたり、カフェを経営している人と関わる方が勉強になり、色々経験できるのではないかと思った。いつか母のそばで役に立ちたい、手伝えたらと思っていた」と話す。

石川さんも「娘は調理師の免許もとっていて、私よりも食に詳しく手際もいい。多分1人じゃここまでできなかったので、本当にいてくれてよかった」と感謝の気持ちをあらわにした。

母娘の二人三脚で作り上げている「キイト舎」。カフェでは大村市の花・サクラ色のドリンクを始め、今後は体に優しい食材を使ったスイーツの提供も考えている。

ママたちの新たなチャレンジの場に

石川さんのもとには子育て中のママが相談に訪れる。拠点にカフェを併設した理由の1つは、様々な理由により定時で働くのが難しいママなどに「働く場を提供したい」との思いからだ。

石川さん自身もかつて子供の闘病生活が長く、働けない期間があった。「1、2時間空いている時間でも働かせてくれるところがあったら…」との思いがあった。

石川雅美さん:
お金だけではなく気持ちの部分も大きい。ずっと家庭や子供のことばかりとなると、お母さん自身が満足感、充足感をひとりの人間として得られない。家族全体にとってもよくないので、少しでも気分転換になるような職場が提供できたらと思う。

石川さんは「スローカフェ」が飲食に興味のある学生など、色んな人がチャレンジできる場にもなればと考えていて、「柔軟にみんなで助け合って、もし最悪、誰も働けなかったらカフェの営業を休めばいいじゃない?と。本当の意味での“スロー”なカフェでいいと思っている」と話す。

慧真さんも「普通のカフェみたいにただ人が集まればいいのではなく、お子さんがいる方とかちょっと悩みがある方が立ち寄ってそこにいる人と話して、少しでも安心してもらえたら。まずは自分がそういう人に寄り添えるようになりたい」と話す。

様々な人が集う「キイト舎」。繭から繰り出した細い糸を撚り合わせてつくる「生糸」のように、新たな拠点「キイト舎」は細やかに、そして丁寧に、人と人、人とまちをつないでいく。

(テレビ長崎)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。