アナウンサー特番の復活が発表されたとき、ネット上では「フジテレビはまだこんなことをしているのか」という批判の声がありました。アナウンサー特番は時代錯誤なのでしょうか?(画像:フジテレビ公式サイトより)

4月20日夜、ゴールデン・プライム特番「FNS明石家さんまの推しアナGP」(フジテレビ系)が放送されました。

同特番には、系列局や新人を含む41人のアナウンサーが集結。「MCの明石家さんまさんが新たなスターアナウンサーを発掘する」というコンセプトで放送されました。

フジテレビがアナウンサーをフィーチャーした大型特番は、2020年4月に同じ土曜特番枠の「土曜プレミアム」で放送された「さんまのFNSアナウンサー全国一斉点検2020」以来4年ぶりの復活。「コロナ禍が明けた」という判断からなのか、多少のリニューアルを施して再開したことになります。

35年にわたるフジ特番の定番

その前身番組「さんまのFNSアナウンサー全国一斉点検」は2019年2月にも放送されていました。さらに前身番組をさかのぼると、2009~2013年に「草彅剛の女子アナスペシャル」が8回。2002~2008年に「草彅・おすぎとピーコの女子アナ」が7回。1990~2001年に正月番組として「女子アナ新年会(大宴会)」シリーズが7回放送されました。2013~2019年まで6年間のブランクこそあったものの、35年の長期にわたる特番なのです。

その主な内容は、女性アナウンサーがとっておきのエピソードや特技を披露するほか、クイズ・歌・料理・スポーツなどで対決したり、ドッキリを仕掛けられたりなど、ほぼタレントと同様の企画。5年前に明石家さんまさんがMCを務めるようになってからは、アナウンサー版の「踊る!さんま御殿!!」(日本テレビ系)というムードで、1人ひとりの個性を引き出すようなプレゼン型のトーク番組になった感があります。

アナウンサー特番の復活が発表されたとき、ネット上に「フジテレビはまだこんなことをしているのか」という批判の声をいくつか見かけました。確かにジェンダーやルッキズムなどの問題が叫ばれ、特にフェミニズムに関しては連日ネット上でさまざまなニュースが採り上げられ、論争が起きているだけに、1990年代から続くフジテレビの制作姿勢に疑問を抱く人がいても不思議ではないでしょう。

しかし、アナウンサー本人、制作サイド、世間の人々などの変化を踏まえて考えていくと、単に「時代錯誤」とは言い切れない面が見えてきます。

令和目前にジェンダー問題をクリア

まず誤解のないように書いておきたいのは、2019年・2020年の「さんまのFNSアナウンサー全国一斉点検」と今回の「FNS明石家さんまの推しアナGP」は、男女のアナウンサーをほぼ平等に扱っていること。

それまで放送されていた1990~2001年の「女子アナ新年会(大宴会)」シリーズ、2002~2008年の「草彅・おすぎとピーコの女子アナ」、2009~2013年の「草彅剛の女子アナスペシャル」は“女子アナ”を前面に打ち出したものでしたが、さんまさんがMCになった2019年2月の時点で、ある程度ジェンダーの問題は解消されていました。

ルッキズムに関しても同様で、かつては「美人女子アナ」と言われるメンバーを並べて競わせたり、女性タレントと料理などで競わせたりなど、外見や「女性らしい」と言われることをフィーチャーする演出が見られましたが、近年では1人ひとりの個性を引き出すようなものに変わっています。

「フジテレビはまだこんなことをしているのか」という声をあげた人は、特番を見ていないのか。それとも、かつてのイメージが強すぎるからなのか、このような変化に気づいていないのでしょう。アナウンサーの中にはバラエティの現場をよく知っているからこそ、盛り上げようとして空回りしたり、悪目立ちしたりする人もいますが、さんまさんの話術もあって「親しみが持てた」などのポジティブな声があがるようになりました。

視聴者層も以前のような男性メインとは言い切れず、女性層やファミリー層などを含めた幅広いものになりましたし、「年に1度、ふだん情報番組やバラエティで見ているアナウンサーの意外な一面を知る特番」というニュアンスで放送されているのです。

「タレント気取り」が許されぬ状況

それでもアナウンサーがバラエティ出演すると、必ずと言っていいほど、「タレント気取り」「会社員のクセに勘違いもはなはだしい」「そんな時間があるならアナウンスの技術を磨け」などの厳しい声があがります。

しかし、これらの見方も主に1990年代から2000年代にかけての“女子アナブーム”のインパクトやイメージを引きずっているからではないでしょうか。前述したようにフジテレビのアナウンサー特番は、2013年1月の「草彅剛の女子アナスペシャル2013」から2019年2月の「さんまのFNSアナウンサー全国一斉点検」まで6年間放送されませんでした。

当時は録画機器の発達に加えてネットコンテンツが浸透して、各番組の視聴率は軒並みダウン。タレントと同等レベルの人気を持つスターアナウンサーが誕生しづらくなり、年末恒例の「好きなアナウンサーランキング」は20代の若手より30代以上の中堅・ベテランが上位を占めるようになりました。「タレント気取り」と叩かれがちな若手アナウンサーたちが勘違いできるような状況ではなかったのです。

筆者自身、その2013年から現在まで50人を超えるアナウンサーと撮影現場、楽屋、前室、メイクルームなどで話してきましたが、男女を問わずほぼ全員が謙虚で浮ついたところはありません。少なくとも「タレント気取り」のような振る舞いは見たことがないですし、スタッフの制作意図を忠実にこなそうとする職人タイプが多いと感じています。

これはフジテレビで言えば西山喜久恵アナのような、女子アナブーム時代に入社しても自分を見失わず、勘違いすることなく職務を全うし続けている先輩がいることも大きいのではないでしょうか。

ただ、アナウンサーの多くはタレント以上に番組でその姿を見かける機会が多いうえに、SNSの発信も行い、局や番組のYouTubeチャンネルにも出演するなどのインフルエンサーでもあります。

「会社員インフルエンサー」の時代

前述したようにアナウンサーは「会社員のクセに勘違いもはなはだしい」などと批判されがちですが、今や大小を問わず多くの企業が“会社員インフルエンサー”を抱え、商品だけでなく社員たちも表に出る時代。社員ならではの情報を発信できる彼らは、テレビ局のアナウンサーよりも商品を積極的にPRしていますし、同時に自らの個性も出して反響を得ようとしています。

今や会社員インフルエンサーは、「企業や商品の認知度を上げる」「販促やブランディングを進める」「人々の共感や信頼を得る」などのメリットがあるスタンダードな営業手法。さらに言えば、SNSやYouTubeなどでは会社員インフルエンサーに限らずアナウンサーよりもタレントのように振る舞っている人が多い中、アナウンサーというだけで以前のイメージをもとに叩こうとするのは無理があります。

そしてもう1つ、ふれておかなければいけないのは、アナウンサー自身の意識が変わったこと。もちろん以前も今も、アナウンサーという職種にこだわり、技術を磨こうとする人は多いのですが、必ずしもそれだけではなくなりました。

長い人生を踏まえ、アナウンサーだけにこだわらず、留学や資格取得、他部署への異動などを含めたキャリア形成を考える人が増えています。せっかくつかみ取った“キー局のアナウンサー”というポストを自ら手放して20代で退社するアナウンサーが珍しくなくなりました。

さらに退社後もフリーアナウンサーだけでなく、タレント、俳優、ジャーナリストを目指す人がいれば、一般企業に就職する人や起業する人もいます。良い意味で「アナウンサーでいること」を絶対視せず、「長いキャリアの一部分」「自分の武器として生かせるスキルや経験」とみなす人が増えてきました。

局の配慮やサポートで良い関係性に

その観点で見ると、アナウンサー特番は本人たちにとって「インフルエンサーとしての仕事」の1つであり、「キャリア」の1つでもあるのでしょう。アナウンサーはふだん一歩引いて進行役を務める機会が多いだけに、「『個性を発揮できる』『一定の自己主張を許される』という貴重な機会」という感があるのです。

これはアナウンサーたちが以前のような「局や制作サイドからいいように使われている」「無理矢理やらされている」というムードが薄れたということでしょう。もちろん局にとってもアナウンサーは、自ら採用・育成してきた財産であり、出演費の経費削減という意味でも有効活用したい存在。だからこそ、仕事を上から押しつけるのではなく、良い関係性を築こうという姿勢が見られるようになりました。

特にコロナ禍を経て体調への配慮が浸透したほか、キャリアや育児などのサポートも進むなど、業界内では「アナウンサーを取り巻く環境は変わった」と言われています。そんな背景もある中でのアナウンサー特番だからなのか、先日話した30代の中堅アナウンサーは「やりがいがあります」、40代のベテランアナウンサーは「ありがたいこと」と前向きに受け入れていました。

ここまで書いてきたように現在のアナウンサー特番は、本人、局、世間の人々の変化を踏まえると、「時代錯誤なものではない」と言えるのではないでしょうか。アナウンサーたちは誹謗中傷のストレス、失言のリスク、常に見られている不安などを抱えながら日々活動しているだけに、心ない言葉で追い込まないような社会でありたいところです。

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