毎夏、後を絶たない水難事故。「日本財団 海のそなえプロジェクト」が実施した調査では、溺れた際に半数以上の人が浮輪やライフジャケットなどの浮具を使っていなかった。同じような事故を防ぐため、同プロジェクトは「事故が起こりやすい状況の検証・分析と情報共有が必要」とし、データベース化を目指している。 (今川綾音)
「子どもが溺れた事故数のピークは7歳と14歳で、7~8月に集中している」「(24歳までの)水難事故の発生は午後2時台に多い」 6月に行われた同プロジェクト主催のシンポジウムで、日本財団海洋事業部常務理事の海野(うんの)光行さんが、消費者庁や厚生労働省などのデータを示した。 登壇した日本ライフセービング協会理事の石川仁憲(としのり)さんは、事故の多い年齢について「7歳は親から離れて自由に活動をし始める。14歳は友達同士で行動するようになる時期」と指摘。午後2時台に事故が多いのは、お昼に飲酒した若者が再び海に入るのも要因といい、「気の緩みに加え、風の向きが変わって海が荒れてくる一番難しい時間帯だ」と解説した。 厚労省によると、年間の交通事故死者数はこの30年ほどで約4分の1に減ったが、屋外で溺れる事故の死者数はほぼ横ばい。そこで、同プロジェクトは、水難事故に関する各省庁のデータを集約し、分析することで対策につなげようと活動を展開。今年5月には、約1万2千人にインターネットで意識調査をした。 調査では、溺れた際に52%の人がライフジャケットなどの浮具を使用していなかったことが判明。助かるために必要な備えとして約6割が「ライフジャケットの着用」と回答したが、実際に購入したことがある人は約1割にとどまることも分かった。 日本水難救済会理事長の遠山純司(あつし)さんによると、溺れたら「(上を向いて水面に)浮いて待て」と学校などで教えられているが、波や流れのある海や川では通用しないことがある。海野さんは、改めてライフジャケットの着用を求め、「今、言われていることが本当に正しいかの検証も必要」と指摘した。 2012年7月に長男・慎之介さん=当時(5)=を水の事故で亡くした吉川優子さん(53)もシンポジウムに登壇。「再発を防ぐには、事故の状況が科学的に検証され、その情報が一般の人にも共有されることが、とても大切」と強調した。 この事故は、幼稚園のお泊まり保育中の川遊びで発生。園の職員らが「これまで事故がなかったから大丈夫」とリスクを検討していなかったことが裁判で明らかになった。吉川さんは「似たような事故を繰り返さないために、保育や教育の現場に携わる人への研修が必要だ」と訴える。
◆「水泳授業の安全に不安」63% 教員調査、2000人回答
同プロジェクトの調査では、水難事故を防ぐための小学校での教育について、教員の6割以上が「教員が教えるのは難しい」と答えた。一方で、水泳の授業の外部委託について「実施する」「検討している」「検討したい」とする回答は合わせて48%にとどまった。同プロジェクトは「スイミングスクールとの連携などが有効な手段になる」と分析する。 調査は5月、小中学校教員2060人から回答を得た。小学校で水泳の授業を行う担当者はクラス担任が89%で、体育の専科教諭や外部指導者は少数にとどまった。また、水泳の授業の不安について聞くと、63%が「安全に関すること」を挙げた。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。