和食店チェーンを展開するサガミホールディングス(HD)が、宇宙食の開発に力を入れている。2021年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)が定める「宇宙日本食」の認証を得て、第1弾「名古屋コーチン味噌(みそ)煮」を発売。宇宙食は、賞味期限が長く、食中毒を避けるため衛生性が確保されているなどの厳しい条件を満たす。同社は商品が被災地でも活用されるようになることを目指している。
名古屋コーチン味噌煮はレトルト食品に分類される。封を開けると、鶏肉以外にも卵やニンジン、シイタケなどがゴロゴロと出てくる。口に含むとどれもほどよい硬さで食べ応えがあり、愛知の伝統食材「八丁みそ」の味付けが癖になりそうだ。
主導するのは、グループ会社「サガミマネジメントサポート」の管理部副参与、榑林功真(くればやしかつま)さん(57)。宇宙食を作り始めた背景には、榑林さんの実家が阪神大震災(1995年)で被災した経験があった。
元々作りたかったのは、宇宙食ではなく災害食だった。サガミチェーン(現サガミHD)に入社翌年、阪神大震災が発生。神戸市内にあった実家は全壊した。すると、それを知った同僚らが、約100万円の義援金を集めてくれた。榑林さんは「災害に関する仕事などを通じたCSR(企業の社会的責任)活動をして、会社への恩返しがしたいと思うようになった」と振り返る。
とはいえ、単なる災害食では社内で企画を通すのが難しく、試行錯誤が続いた。そうした中、突破口を開いたのは、名古屋市で2014年以降開催されているイベント「手羽先サミット」だった。サガミHDも出品してきたこのイベントが掲げるテーマが「宇宙一の手羽先」。これに着想を得て、長期保存できる宇宙食は災害食としての活用も見込めると判断して発案し、17年に開発を始めた。
栄養学などの知見を得るため相模女子大(相模原市)と協力し、宇宙飛行士のストレス解消に生かすため、かみ応えのある硬さにすることなどを決めた。製造は、レトルト食品や保存食作りのノウハウがある静岡県焼津市の食品メーカー「石田缶詰」に発注した。製造過程で高温での加熱殺菌処理をするなど宇宙食として必要な基準を満たし、21年にJAXAに認証された。
今年3月には、商品を携え、能登半島地震被災地に出向いた。金沢市の避難所で、被災者やボランティアスタッフ約150人に商品を振る舞った。榑林さんは「ありがとうと言われ、うれしかった。宇宙食は人のおなかを満たすだけでなく、笑顔にすることもできるのだと気づいた」と話す。ただ、第1弾は食物アレルギーを引き起こすことがある卵を含むなど災害食としては課題も。現在は近江牛を使った第2弾も開発中で、食物アレルギーにもより配慮しているという。榑林さんは「今後も非常時に役に立てるようなものを作っていきたい」と意気込んでいる。
前身のサガミチェーンは1970年3月設立。本社は名古屋市守山区。2024年3月末時点で従業員数は534人、店舗数は256店(うち海外9店舗)。名古屋コーチン味噌煮は600円(税込み)で、サガミの店舗や名古屋市科学館、通販サイトの楽天市場などで販売している。【大原翔】
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