大島純二・ササフネ会長

 「食」を消費者の立場で考えると、「食品ロス」の課題に行き着くだろう。調理し、提供する事業者の役割にも目を向けたい。東京・下町のすし店を振り出しに、持ち帰り海鮮丼専門店「丼丸」を全国展開する株式会社ササフネ(東京都葛飾区)は、この業界での「食品ロス」削減のパイオニアともいわれる。会長の大島純二さん(75)を訪ねた。【聞き手・三枝泰一】

 ――食品ロスを減らす取り組みを続けておられますね。

 ◆食品ロス? 俺に言わせりゃ、フツーのことをやっているだけなんだよね。SDGs(持続可能な開発目標)とか、難しい言葉が使われるようになったけど、全然、意識なんかしていませんでしたよ。

 ――でも、取り組みは長いですね。

 ◆「ササフネ」はすし屋でスタートしましたが、一般的にすしは捨ててしまう食材が多かったんですよ。魚の端材がそう。カウンターにお客を座らせて、にぎりを出す店だと、仕込み過ぎの売れ残りがどうしても出ます。そこで考えついたのが「海鮮丼」だったわけです。どんぶりにのせる魚は、ある程度こちらに「お任せ」してもらえます。その場で食材の調整が利くので、ムダは出さないで済む。海鮮の「バラ丼」にすれば、端材だって立派な食材になる。お客に安く出せるしね。昔は、すし屋のどんぶり物と言えば、鉄火丼くらいしかなかった。

 ただ、見た目のインパクトは大事なので、大きいネタを使います。当然、原価率は高くなるが、1人前を作るのに20~30秒でできるので、店の回転率は上がる。このスタイルでやってきた。正直に言えば「商売」の話だったわけです。

 ――柔軟な発想ですね。

 ◆そう。すし屋って、伝統の職人が仕切っている、というイメージがありますよね。弟子の頃から「しきたり」をたたき込まれているから、融通が利かない部分もある。店を始めた当初、調理人たちは、魚の端材のことなんか気にも留めずに捨てていた。「もったいねーな」と思ったけれど、それが包丁さばきだ、という感じだったんだろうね。「端材なんて、何に使うんですか」と言うから、「バラ丼にするんだよ」とね。

 海鮮丼は、ご飯にのせるだけ。工程が簡単なのでワンオペレーションでの店舗運営も可能で、仕事をしてもらう人の幅も広がりました。

 ――その発想はどこから生まれたのでしょうか?

 ◆俺は職人でもなんでもないからさ。技がない分、いろいろ考えたんだよ。

 大学時代はちょうど学生運動の時代でした。講義もなくなってしまったので、1年で中退しました。「もっと学ぶものがある」と思い、欧州と中近東を一人で放浪しました。スペインに一番長くいましたが、まだフランコ総統の独裁政権の時代で、大変そうだったけど、皆、工夫して生きていました。柔軟な発想が生まれる素地かもしれませんね。職人は若い頃に「決まり」を仕込まれるけど、俺は自由を満喫した。決定的な違いだよね。

 ただ、日本に帰ってからは苦労しましたよ。20代でしたけれど、欧州の街を再現した今でいうテーマパークみたいなものを日本につくりたいと考え、資金稼ぎを始めたのですが、うまくいかない。広告業、タクシー運転手、公務員にもなりました。タクシーでは2回スピード違反でつかまって「俺には向いていないな」と悟りました。

 29歳の時、持ち帰り形式のすし店で1年間働き、30歳で「ササフネ」を創業しました。

 ――今年の「ゴミゼロの日」(5月30日)に、店舗でこれまでに開発した「SDGs達成に貢献した取り組み8選」を公開されました。

 ◆一番人気は「サーモン皮煎餅」です。これは東京都内の店舗の店主になった主婦の発想から生まれた商品です。最初は、それまで捨てるだけだったマグロの皮を揚げて店に出したんですが、これが大ヒットした。マグロより手に入りやすいサーモンの皮も揚げて煎餅にしたというわけです。主婦じゃなきゃ、こんなことは思い浮かばないわな。

 ――業態を変えることで、人材の幅も広がった?

 ◆その通りだね。人との出会いがすべてでしたね、僕の場合は。若い頃の海外でもそうだし、今の仕事でもそう。皮煎餅を開発した店主さんの仕事ぶりからは、俺もやる気をもらったな。感謝しています。

 最初の話に戻りますが、理屈ではなく、当たり前の工夫の積み重ねが社会的な効果につながるんだな、と思いますね。

おおしま・じゅんじ

 1948年、東京都北区出身。精密機器部品工場経営者の二男。日本大学法学部新聞学科中退。1979年、「ササフネ」創業。持ち帰り専門の海鮮丼「丼丸」の全国展開は2007年にスタートし、現在、全国に約400店舗。

 2024年(第52回)毎日農業記録賞の作文を募集しています。9月4日締め切り。詳細はホームページ(https://www.mainichi.co.jp/event/aw/mainou/guide.html)。

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