惜しまれつつ閉店です。長野市街地で45年続いた喫茶店が8月に閉店します。人気のランチを作ってきたマスターの体調が優れないためです。店には連日、常連客が詰めかけ、マスターに別れと感謝を告げています。

繁華街で45年 人気の喫茶店が閉店へ

サイフォンで淹れるコーヒーに、分厚いトーストが乗ったモーニングセット。


男性客:
「昔ながらの喫茶店のおいしさとやさしさがありました」

女性客:
「分厚いトーストと、お店の雰囲気と、かっこいいマスターが魅力かな」


ここは権堂アーケードの東側・西鶴賀商店街の「珈琲館 珈香」。マスターの久保田富夫さん(64)が一人で切り盛りしています。

昭和の雰囲気が漂う店内。この光景も残りわずかとなりました。

客:
「長年お疲れさまでした。お世話になってありがとうございました」

店主:
「こちらこそありがとう、みんな元気でな」


店の入り口には閉店を知らせるメッセージ。

8月24日、45年の歴史に幕を下ろします。


「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「本当に、今までやってきた中で、一番全力でやってます。カウンターの中から、みんなをもう見られないんだなっていうのは、ちょっとずつ感じてはいるんですよね…」


繁華街の盛衰、外食の変化をみつめて

「珈香」のオープンは1978年・昭和53年の12月。

当時19歳の久保田さんが母・和美さんと始めました。


土地柄、店は夕方から夜にかけてにぎわいました。しかし、徐々に繁華街が元気を失うと客足が減少。ピンチを迎えた店は1990年代に入ってから「モーニング」を始めました。

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「(当初は)誰も来ないんですよ。俺、何やってんだろうって。これだったら夜遅くまでやってもいいのかなとか、いろいろ考えて。でもきょう一日、きょう一日って、頑張ってみて(モーニングを始めて)1カ月たったときに、2人の年配のお客さんが来てくれるようになって、その2人に救われて、今の朝7時半っていう営業が定着した」


手の込んだランチで息を吹き返す

その後、2000年代に入ると外食の多様化も進み店は「ランチ」にも力を入れるようになりました。

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「ニンジンでドレッシングを作って、あとアンチョビとキャベツのパスタをつけて」

手の込んだメニューで評判となり店は息を吹き返しました。

客:
「食べたあとにすごく満足感がある、元気がないときに食べると元気が出る」
「創作料理を出してくれるから飽きなくて、いつも楽しみに」


店を出る客には、必ず「いってらっしゃい」

「味」だけでなく「マスターの人柄」もファンが定着した理由のひとつです。

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「気を付けていけよ、いってらっしゃい」

店を出る客には必ず声を掛けるのがこだわりです。

久保田富夫さん:
「いろんなお店がある中でここを選んでくれて感謝の気持ち、また職場に戻ったりするわけだから家を出るときと同じ感覚」


少なくとも50年は続けるつもりだったが…

多くの常連客がついた店。2022年、取材した際には…

「珈香」マスター・久保田富夫さん(2022年):
「50年は最低でもやりたいなと…体が続く限り。常連さんも年齢が上がってくるのでゆったり話しながら仕事ができればなと」


体調厳しく…閉店は妻の誕生日に合わせて

目標の50年まであと4年半。久保田さんは苦渋の決断を強いられました。3年前に肺炎を患い1カ月半ほど入院し、その後は定休日を増やすなどしてきましたが、体調は思わしくなく、これ以上、店に立つのは難しいと判断したのです。閉店の日は「8月24日」に決めました。

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「妻が8月25日が誕生日なんですよ。今まで何一つプレゼントしたことがなくて、『最後に私が望むプレゼントがほしい』と。『お店をやめて、ゆっくり体のことを考えて休んでほしい』と言われて。最終的には、妻の一言。本当は、這ってでもやりたいなと思ったけど、やっぱり、これからは、ちょっとゆっくりしようかなと思ってます」


別れと感謝を告げる常連客が次々と…

人気のランチは体力面から7月末で終了。それでも、連日、常連客が詰めかけています。

30年来の常連客:
「何するの?」

久保田富夫さん:
「全然考えてない」

こちらは、通って30年になる女性。

30年来の常連客:
「なくなっちゃうんだもんね…しょうがないけど、寂しいです。これからどうしよう、来るとこなくなっちゃって

久保田富夫さん:
「悪い悪い」

30年来の常連客:
「実感がわかない。まだずっと続くみたいな」


こちらは、埼玉から駆け付けた男性。市内に住んでいたおよそ20年前、店に通っていました。

埼玉から:
「やっぱり寂しいことは寂しいよね。1年に1回2回は来ようと思ってても機会がないから…」

久保田富夫さん:
「(来てくれて)うれしかった」

埼玉から:
「閉店する前に会えてよかった」

久保田富夫さん:
「サンキュー。行ってらっしゃい」


閉店の張り紙には感謝のメッセージ…

(客からのメッセージ)
「たくさん思い出をありがとうございました!珈香最高!」
「長い間お店を守っていたマスター、最高にかっこよかったです!」


こちらの女性も10年間通った常連客。仕事の都合でこの日が最後の来店でした。

10年来の常連客:
「寂しいです、正直言うとね(涙ぐむ)。自分の中では永遠にこのお店はあるような感じでいたから、急でショック大きかったんだけど、マスターの体のこともあるし、無理してほしくないから…。(マスターには)感謝しかないです。長い間ありがとうございましたと、お疲れさまでした」

最後は記念撮影―。

久保田富夫さん:
「気をつけてやれ」

10年来の常連客:
「ほんとに長い間…また泣いちゃう」

最後の日まで「いってらっしゃい」

閉店まで残り4日。(8月21日~24日)

最後の時まで久保田さんはいつも通り、客を迎え、送り出すつもりです。

「珈香」マスター・久保田富夫さん:
「体的にはきついけど、エプロンをしてカウンターに立つと、みんなから力もらえるんで、やっぱりこの仕事が天職だったんだと思う。
それが分かって、幸せなんだよね。(最後の日まで)普通に笑って、いつも通りに、『ありがとうございます、いってらっしゃい』と過ごせればいいかな」

久保田さん:
「いってらっしゃい」

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