国内で販売されている生ハムは、イタリアやスペイン産をよく見かけるが、国産のイメージはあまりない。ところが、神奈川県藤沢市に生ハムを手作りする工房があるという。塩気とうまみが口っぱいに広がる絶品生ハムを堪能するため、工房を訪れた。【原奈摘、写真も】
湘南藤沢地方卸売市場の中に、黄色が鮮やかな一角が出現する。「ふじさわ生豚(なまはむ)」を生産している「Shoko-Tei」である。一角はゴッホの絵画「夜のカフェテラス」をイメージし、2階が工房、1階が直営店とイートインスペースになっている。2階に上がらせてもらうと、生ハムの原木がつるされている。オーナーの高橋睦さん(55)は「表面からはチーズの香りがしますよ」と話す。塩気のある発酵食品のような、熟成の進んだ香りが鼻をくすぐる。
かつて高橋さんは旅行会社に勤め、ツアーのプロデュースや添乗員をしていた。海外旅行に付き添うと、観光地や文化施設などに興味を示さない客も多かったという。しかし食事の時間は、だれもが現地の料理に関心を示し、楽しそうに解説を聞きながら食べていた。食の魅力を実感したという。「食を文化として捉えて何かやってみよう」。2003年に同市内で飲食店を始め、12年に藤沢の名産品にしようと魚醬(ぎょしょう)作りから取りかかった。片瀬漁港で水揚げされたカタクチイワシと塩で「鵠沼(くげぬま)魚醬」を作り上げた。そして、15年に始めたのが、魚醬と同じ塩蔵でできる生ハム作りだったのだ。
生ハムは先史時代からある伝統食で、歴史書などを読んで研究した。豚肉を塩の中に埋めて水で塩抜き、後はつるして自然乾燥させ、土着の菌の力で熟成させる――。古代のレシピにのっとり、材料は藤沢市産の豚肉とベトナム産の海塩のみを使い、空調管理もしていない。
日本のような高温多湿の環境でも生ハムはできる? そんな疑問を口にすると、高橋さんは笑いながら答える。
「実は日本が一番生ハム作りに向いていると考えています」。熟成には高めの温度と湿度が必要で、冬に仕込みをすれば日本の梅雨から夏を越えることで円熟するらしい。
ふじさわ生豚を口にすると、塩気の後に力強いうまみとコクが広がる。これが年によって気候が異なると、味も変わってくるのも興味深い。生ハムのくず肉を再利用した各種サラミも脂がジューシーでより複雑な味わいだ。
高橋さんが抱負を語る。
「地元に住む人が、手土産に持っていってお国自慢をできるような商品に育っていってほしい」
取扱店
「Shoko−Tei」(神奈川県藤沢市稲荷520、090・8504・9835)の営業時間は10~14時ごろ。テークアウトの他、切り立てのふじさわ生豚(500円)、パンとピクルスが付く3種盛り合わせ(1200円)、5種盛り合わせ(2200円)がその場で食べられる。その他市内の飲食店でも提供されている。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。