記者会見で東大の授業料改定案について説明する藤井輝夫学長=東京都文京区の東大本郷キャンパスで2024年9月10日午後6時32分、西本紗保美撮影

 東京大が10日に示した授業料の引き上げ方針に対して、学生や教職員の一部から再び反発の声が上がっている。藤井輝夫学長は記者会見で授業料の改定案について「さまざまな意見を踏まえたもの」と学生らの声を踏まえたことを強調したが、学生らは「議論が不十分」「不誠実な態度」と抗議声明を出した。大学側は9月中にも正式決定したい考えだが、批判の声は収まりそうにない。

 東大の授業料改定案は、2025年4月の入学者から学部の授業料を2割引き上げて64万2960円とするもので、実現すれば20年ぶりの値上げとなる。

 10日に記者会見が開かれた大学構内の建物前では、「学費値上げ反対」などと書かれたプラカードを静かに手にする学生らの姿があった。

 「議論が十分とは言えない状況において、学費値上げが拙速に決定されようとしていることに、強い懸念を表明します」。学生有志団体の「東大学費値上げ反対緊急アクション」は11日、改定案についての抗議声明を出した。

 声明では「拙速かつ強権的に学費値上げを強行することは、現在在籍する、あるいはこれから先に入学してくる学生に対する教育を職責とする教育者として不誠実な態度であると言わざるを得ない」と強調し、大学側に根本的な見直しを求めた。

 東大大学院総合文化研究科1年の男性は「学生を軽視している。いくら値上げするのかを検討するプロセスに学生が不在であることに怒りを感じる」と憤る。

 東大は、授業料改定による増収額を28年度末時点で13・5億円と見込んでおり、学修支援システムなどの機能強化や施設・設備の維持改修、グローバル教養科目の増設などに活用すると説明している。男性は「授業料収入は大学全体の収入の中ではごく一部にとどまるはずだ。大学は、弱い立場の学生から取る学費を上げるのではなく、むしろ学生と一緒になって国と向き合い、運営費交付金を増やすよう求めるべきだ」と訴えた。

 東大の教授からも同様の声が上がる。

 学生の値上げ反対デモを見守ってきた教育学研究科の隠岐さや香教授(科学史)は、今回の意思決定過程が東大紛争を経て1969年に東大と学生との間で結ばれた「東大確認書」が定める「全構成員自治」(教職員だけでなく学生も大学の運営を担うこと)に反しているとして「疑問が残る」と指摘する。

 一方、学費免除の対象が拡充される点や、入学志願者が奨学金制度などの情報を受験前に知ることができるようにするとした点については「学生の切実な声を取り入れたとみられ、これまでのデモの成果ともいえる。受給可否が不安定な現行の学費免除制度も改善していくべきだ」とした。【井川加菜美、西本紗保美、斎藤文太郎】

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