自身のひとり旅についてつづった著書『50歳からのごきげんひとり旅』が多くの人の共感を集め、10万部を超えるベストセラーになった山脇りこさん。年齢を重ねた今こそ楽しめる、ひとり旅の魅力について話を聞きました。
山脇 りこ(やまわき・りこ)料理家。テレビ、新聞、雑誌などで和食をベースにした家庭料理を紹介している。長崎市の観光旅館に生まれ、子どもの頃から食いしん坊。大好きな台湾の旅行ガイド本の執筆のほか、著書多数。2023年に『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房)を上梓。
旅が人生の栄養に
50歳になる少し前からひとり旅の魅力にハマり、年に数回は国内外でひとり旅を楽しんでいる料理家の山脇りこさん。
一般的に“ひとり旅好き”と聞けば、これまでアクティブな旅をしてきたバックパッカータイプかと思いきや、山脇さんは「実はビビリで人見知り」。ふだんはひとりで外食するのも苦手な性格だと話します。
「今でもひとり旅をするときは緊張しますし、いまだに慣れないことも多いです。ひとりごはんはどこで食べるか悩みますし、いざお店の前に着いても入る勇気が出なくて、お店の周りをぐるっと一周しちゃったり(笑)」
旅先にランニングシューズを持参して、早朝に街を走るのも好きな時間(出所:『大人ひとり旅のはじめ方』、撮影:深澤慎平)そんな“ビビリ”な山脇さんのひとり旅は、「無理をしないこと」と「ごきげんでいること」が最優先。予定を詰めこまず、寄り道しながら気ままに散策し、疲れたら早めに休憩します。夜は外を出歩かず、ホテルの部屋でのんびり読書をして過ごすことも多いとか。
「この自由さが、ひとり旅の醍醐味でもありますよね。年齢的に心身の鬱々が増えてきたこともあり、何か好きなことをしようと、思いきってひとり旅をするようになりました。
旅で自分だけの時間をゆっくり過ごすと心の栄養になり、気持ちもリフレッシュ。たった1泊でも心が晴れて、脳が活性化し、私のなかの“ごきげん貯金”がたまっていきました。機嫌がいいと、家族にも優しくなれた気がします」
自分の行きたい店に好きなだけいられるのもひとり旅のよさ(出所:『大人ひとり旅のはじめ方』、撮影:深澤慎平)学生時代から旅行好きだったという山脇さんですが、結婚後の旅はほとんど夫と一緒。ひとり旅を復活させたもう一つのきっかけは、グループで訪れた台湾旅行でした。
「私だけ宿へ先に戻ることになって、先輩から『ひとりで大丈夫?』と聞かれて。えっ、私はひとりで台湾の街すら歩けない人間だと思われている?と驚きで(笑)。
結婚前にひとり旅の経験はありましたが、言われてみれば30年近くしていない。私にもまだできるのかな? できないかも?と考えました」
"初めて"があるから楽しい
その台湾旅行から3カ月後、山脇さんは国内1泊のひとり旅を決意。何度も訪れたことのある安心感を理由に、行き先は京都に決めました。
「ところが……京都駅で降りた途端にドキドキそわそわ。宿にチェックインしたものの、ひとりでどうしたらいいの?と落ち着きません。
結局、ひとり外食はハードルが高く、お気に入りのさばずしをテイクアウト。ホテルの部屋で食べて、その日はさっさと寝てしまいました(笑)」
初日からくじけそうになった久しぶりのひとり旅。気持ちが切り替わったのは、翌朝のことでした。
「朝6時に清水寺までランニングしてみたんです。地元の人々の姿や、観光では出会わない光景を目にしながら清水の舞台に到着。貸し切り状態で美しい景色を眺めていたら、解放感で満たされてきて。今日一日することを私が全部好きに決めていいんだ、という気持ちになりました。
ふだんは仕事や家事で自分の時間がなかなかとれないけれど、旅先では120%私の時間。夫や友人との旅行ももちろん好きですが、自分のペースでまわったり、お店の人と1対1で会話をしたり。ひとり旅だからこそできる発見がありました」
左:おいしいものを目当てに旅先を決めることも多い。ひとりで入りやすい店かどうか事前にチェック 右:「夫や友人と一緒の旅行のときに、自分だけ先乗りして2〜3泊ぐらいのひとり旅をするのも好き」と、山脇さん。ひとり旅初心者にもおすすめのプラン(出所:『大人ひとり旅のはじめ方』、撮影:深澤慎平)50代という年齢は、「自分のことをわかっている気になって、“初めての経験”が減っていく」と話す山脇さん。
似合う服も髪型もメイクも自分のなかでなんとなく決まってしまい、新しいことを始めるにはおっくうになりがちです。そんななか、山脇さんはひとり旅をすることで、思いも寄らない“初めて”をたくさん体験することになりました。
「大げさだと笑われてしまいそうですが、ひとり旅が終わると、『私にもできた!』という達成感があるのもいいんですよね。
50代は自分のことは自分でケアできるし、お金の使い方もわかっている年齢。簡単に恋に落ちることもないですし(笑)、物事の分別もつく。最高のひとり旅の適齢期だと思っています」
自分らしく旅を楽しむ7つの秘訣
1:旅の目的は1~2個あれば十分
「あれこれ詰めこんだ旅も楽しいですが、旅の目的は1〜2個あれば十分。お気に入りの美術館や、行ってみたい店、食べたいものなど、それだけで旅先を決めてもいいと思います。
私はふだんから雑誌やSNSで見て気になった場所を地図アプリ“グーグルマップ”に保存して、行きたい場所リストを作っています」
2:自由気ままに歩く
「ひとり旅は自由に寄り道しながら気ままに歩けるのがいいところ。街を歩くことで、ぐっと感動が深まります。
行き先やルートを誰かと相談する必要もなく、自分のペースで歩けるのもひとり旅のよさ。私は徒歩で移動できるか、公共交通機関でまわれる場所を旅先に選ぶことがほとんどです」
3:無理しなくていい!
「ひとりだからこそ無理は禁物。私も疲れたら早めに休み、むちゃな冒険は避けるようにしています。
私の知人は、ひとり旅中にひとりでいるのが寂しくなって早く家に帰りたくなったそう(笑)。そういう自分を知るのも発見ですよね。ひとり旅は無理に挑戦することではないので、その心持ちを忘れずに」
『大人ひとり旅のはじめ方 (主婦の友生活シリーズ)』(主婦の友社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします4:誰かと話さなくてもよし
「ひとり旅の醍醐味は、完全にひとりになれること。私はふだん沈黙が苦手で『誰かと話さなければ』と思ってしまい、それがストレスになって疲れてしまうタイプ。
そのため旅行中は口数少なく過ごしています。『誰とも話さなくてもいい』と割りきって考えられると気もラクです」
自分のペースで楽しい旅を
5:朝時間こそ旅の醍醐味
「ひとり旅ではいつも朝ランをしています。以前は走ることが大の苦手でしたが、今では旅先にランニングシューズ&ウエアを持参して走るのが好きになりました。
早朝、人通りがまばらな街を眺めながら走ると、その街の違う一面が見えてきます。ランでなくても朝散歩でも◎」
6:宿選びは自分の心地よさを大事に
「日常から解放されてリラックスできるよう、快適なホテルを選ぶようにしています。
宿の条件は人それぞれだと思いますが、私が譲れないのは清潔さ。そのため、できるだけ新しいホテルを選ぶことが多いです。名前を知っているホテルチェーンを選ぶと安心感もあります」
(出所:『大人ひとり旅のはじめ方』、撮影:深澤慎平)7:自分の好きな洋服で行く
「ひとり旅だと誰に見せるわけでもないので、いくらでも手を抜けます。以前は帰りがけに捨ててもいい服を着ていましたが、それはやめました。
自分が気に入っている服装で行ったほうが、幸せな旅になることが多いからです。気分も上がりますし、店に入るときに気後れしません」
(文/大野麻里)
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