天気の崩れ、特に台風によって頭痛など体の不調を感じる人が増えている。その約7割が女性だというが、なぜ台風が近付くと頭が痛くなるという現象が起きるのか。30年以上にわたり天気と体調の関係について研究している、中部大学および愛知医科大学の佐藤純教授に、不調の原因と痛みを和らげる方法を聞いた。

「大きな気圧低下」と「微気圧変動」

ーーなぜ台風が近付くと頭が痛くなる?
最近「台風頭痛」という言葉がありますが、台風のように気圧が大きく変わる時に頭痛がよく出ることからそう呼ぶようになりました。

原因は2つあって、1つは台風が近付く際の大きな気圧の低下。もう1つは、台風本体よりも先に押し寄せてくる「微気圧変動」と呼ばれる小さな気圧の波です。この2つが私たちの体に影響を与え、体調を崩す人がいます。

中部大学・愛知医科大学 佐藤純医師
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ーーどういった症状が出る?
気圧が下がったり、変化したりする時に起こる痛みのことを「天気痛」と呼びます。頭痛やめまい、関節痛、人によってはお腹を下したりもします。呼吸が苦しくなったり、胸が圧迫されるように感じる人もいます。

また、気持ちが少し塞いでしまう“抑うつ”や、逆にイライラしたり、落ち着きがなくなるケースもあります。歯茎がうずくこともあり、これらの症状は気圧が下がったり、微妙に揺れたりすることで起こることが分かっています。

5歳から90代まで幅広い年代に影響

佐藤教授によると、台風が近付くと内耳(ないじ)と呼ばれる耳の奥の部分が気圧の変化をキャッチして脳に伝達、自律神経のバランスが乱れることでさまざまな症状が出るという。

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ーー症状が出やすい人は?
私の外来患者では女性が約7割、男性が約3割という比率です。また、ウェザーニュースと一緒に行った全国調査でも、女性の約85%は「天気痛(気象の変化によって持病が悪化する「気象病」のうち、痛みや気分障害に関するもののこと)がある」もしくは、「天気痛を持っているような気がする」という調査結果でした。

一方、男性も「天気痛がある」あるいは、「天気痛があるかもしれない」と思っている人が5割程いたので、たくさんの方が天気の影響を受ける痛みや気象病を持っていると推測されます。

年齢的には、もともと頭痛を持っている人が天気の影響を受けやすいので、私の外来患者の平均は38歳ぐらいです。下は5歳から上は90歳まであらゆる年代の方々が天気の影響を受けています。

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ーーどういうメカニズムで不調は起きる?
気圧の変化は耳の奥の内耳と呼ばれるところで感じ取られています。内耳が気圧の変化を感じ取ると、それが脳に伝わり、脳はそれをストレスというふうに感じとって自律神経に影響を与えます。自律神経は内臓の働きを高めたり抑えたり、体を活発にしたり休息したりと、体調を整える役割を自動的に行っているので、そこに影響が及ぶとさまざまな症状が現れます。

一方、片頭痛は自律神経とはあまり関係なく、内耳の興奮がそのまま片頭痛につながっていることもわかっています。

睡眠と運動で自律神経を整える

ではどういった人が天気の影響を受けやすいのか。佐藤教授は、体質的なものもあるが、寝不足や運動不足の人は自律神経が乱れやすく要注意だという。

ーーどういう体質の人がなりやすい?
女性に多い理由は、片頭痛持ちの人が多いのと、自律神経が少し弱いということがあります。全体的にはめまいを起こしやすい人、乗り物酔いをしやすい人、夏でも足の先が冷たいという冷え性の人、生活が乱れている人は自律神経も乱れやすくなっているので天気の影響を受けやすいです。

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睡眠不足や朝が苦手で朝ご飯を食べない人は要注意です。朝ご飯を食べて自律神経を副交感神経から交感神経に切り替える必要がありますがそれをしなかったり、夜になってだんだんと副交感神経が優位になって眠くなるはずが、そういうことができない人です。

もう1つ重要なのは、運動不足の人は自律神経が弱くなってきます。日ごろから睡眠をよくとって軽い運動をしていれば、台風の影響を受けにくくすることは可能だと思います。

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ーー一般的な“肩こり頭痛”と片頭痛の違いは?
よくある筋肉が硬くなっておこる“肩こり頭痛”は自律神経が関係しています。自律神経の中の交感神経が興奮すると血管が収縮してしまうので血流が悪くなり、筋肉に酸素や栄養がいかなくなって痛みが強くなることがわかっています。パソコンやスマホを同じ姿勢で長時間見続けていると、肩や首の後ろの血行が悪くなり頭痛を引き起こします。

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一方、片頭痛は脳の血管が急に膨らんだり、血液の成分が滲み出るような炎症が起きて発症します。脳の血管が急に広がるとガンガンと頭痛が出てきますが、血管を広げているのは顔や脳の血管に分布している三叉神経の興奮です。三叉神経は暑いことや寒いこと、強い光が目に入ってきたり、変な匂いを嗅いだり、音がうるさかったりすると興奮します。そのため片頭痛の人はあらゆる刺激で頭が痛くなりますが、“気圧の変化”も三叉神経を興奮させ、頭痛を引き起こす要因になっています。

1分間の「くるくる耳マッサージ」

「台風頭痛」の対策におすすめなのが、自宅でできる1分間の耳のマッサージ。親指と人さし指で両耳を軽くつまんで行う運動で、むくんでいる内耳の血行を良くし、耳の周りにある自律神経を整えるツボを刺激する効果があるという。

「くるくる耳マッサージ」

ーー日ごろからできる対策は?
耳の奥の内耳の感受性を少し抑えるにはどうしたらいいかということになります。体がむくみがちだと内耳もむくみやすいので、軽い運動をしたり、お風呂にゆっくり入って汗をしっかりかくこと。また、腸の調子が悪くなってくると自律神経も乱れやすくなるので、ヨーグルトなどを食べて腸環境を良くすることが重要です。

「くるくる耳マッサージ」耳を上に5秒引っぱる

ーー台風が接近している時にできる運動は?
私が考案した1分間の「くるくる耳マッサージ」があります。
まず、耳の上部を親指と人さし指でつまんで上に向かって5秒引っ張ります。次に下部を下に向かって5秒引っ張る。耳の横をつまんで横に5秒ひっぱり、そのまま後ろ方向に大きく5回まわします。

耳の横をつまんで横に5秒ひっぱり、そのまま後ろ方向に5回まわす

次に耳を上下に挟んで5秒、最後に手ひらで耳全体を覆い円を描くように後ろに5回まわします。これで1セットです。

耳を上下に挟んで5秒

1日1回でも、朝昼晩3回やってもいいし、台風が近付いてきて頭がモヤモヤしてきたらやってください。寝る前にやると耳周りがポカポカするのでだいぶ落ち着くし、朝起きた時にやれば頭がすっきりします。

手のひらで耳全体を覆い円を描くように後ろに5回まわす

これをすることで、むくんでいる内耳の血行やリンパ液の流れが良くなってくるので気圧を感じにくくできます。また、耳の周りには自律神経を整えるツボもあるので、首や耳周りの血行を良くして、それを刺激するという2つの効果があります。

マッサージをすることですぐに効果を感じる人もいるし、妊娠中でお薬が飲めない方などには特にお勧めです。

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