出来立て熱々で、スーパーの売り場に並ぶ「あちこーこー豆腐」。

その「あちこーこー豆腐」だが、沖縄が本土に復帰した1972年から2年間、法律によって販売ができない期間があり、この「空白の2年間」には、沖縄の食文化を守るために奮闘した人たちの物語があった。

沖縄の本土復帰に伴う国内法の適用

1972年の本土復帰を目前に控えたある日、県内の豆腐屋が集まって「話し合い」が開かれていた。その議題は、「あちこーこー豆腐がなくなるかもしれない」

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問題となったのは、沖縄の復帰に伴う国内法の適用。

食品衛生法では、「豆腐は冷蔵するか、又は水槽内において冷水で絶えず換水しながら保存しなければならない」と保存基準が定められている。

このままでは、県民が長年親しんできた「あちこーこー豆腐」の販売が出来なくなる…。猛反発した豆腐屋は国に対し、「あちこーこー豆腐」の販売を認めさせようと動き出した。

ナニワ商事の澤田左行さんは、今から約60年前に豆腐の製造機器の販売を始めた。

ナニワ商事 澤田左行さん:
本土のほうは沖縄より進んでいましたからね。豆腐の業界も進んでいるし、製造工場もたくさんありましたから、そういうところで使っている機械の小型をメーカーに相談して沖縄に入れる

一件、一件、豆腐屋の要望に応え、商売も軌道に乗っていた矢先に復帰に伴う法律改定の知らせが飛び込んできた。

ナニワ商事 澤田左行さん:
これは大変だとまず思ったのは、これはえらいことだということは、一緒に食事しながら豆腐屋さんと毎日会っているからね。これを何とかしなくちゃいかんなということは考えました

すぐに立ち上がったのは、沖縄豆腐加工業組合。

業界の世話役として事務局を担っていた澤田さんは、政府に対し沖縄の現状を訴える文書を
何度もしたためた。

ナニワ商事 澤田左行さん:
何回も送りましたよ。沖縄の豆腐屋さんは困ると。冷たい豆腐になると、元々熱い豆腐で皆さん食生活慣れていますからね。冷たい豆腐になったら買う人いませんよ当時の沖縄には。「何とかお願いします」と言ったけど全然政府は耳も貸さないわけですよ

沖縄には当時、冷たい豆腐の製造に対応できる店はほとんどなく、冷水器など新たな設備の導入には莫大な費用が必要だった。

また、慢性的な水不足による断水が相次ぐことも悩みの種だった。

暗中模索のなか見えた一筋の光

何としてでもあちこーこーの豆腐を認めてもらわなければいけない。
澤田さんたちは理解を求めたが、訴えが認められないままとうとう復帰の日を迎えた。

新たな法律に対応できず、多くの豆腐屋が廃業に追い込まれた。

世替わりの中で「あちこーこー豆腐」は消え去ってしまうのか…。

県外の業界団体や国会議員の協力を得ながら、澤田さんたちは粘り強く政府と交渉を重ねた。

ナニワ商事 澤田左行さん:
内地のメーカーとか業界からは、「お前馬鹿じゃないか」と。冷たい豆腐になると冷水器だとか、冷蔵庫だとかいろんなものが売れるのに、内地と同じように冷たい豆腐をなぜ沖縄で奨励して早くやらんかって。だけど商売はいいかも分からんけど、何十年付き合っている沖縄の業者から文句いわれる。僕は一心同体だと、沖縄の業者の味方だという態度をずっと取り続けてきたんですよ

そうした中、ある日、澤田さんの元へ一通の手紙が届いた。

ナニワ商事 澤田左行さん:
「近く調査に行くからその結果に基づいて決めましょう」と最後の手紙はそういう手紙だった

暗中模索を続けてきた澤田さんにとって、まさに一筋の光を見た瞬間だった。

ナニワ商事 澤田左行さん:
3人が沖縄に派遣されてきまして、那覇の市場とか2、3日案内して、「何とかこの熱い豆腐を
認めてくれ」ということを説明して周ったんですよ。豆腐を売っているところを見ながら、その豆腐屋さんとも話をしてくれましたからね。最後は感触よかったです

切実な訴えが実を結ぶ 

復帰から2年後の1974年、国は食品衛生法に基づく豆腐の保存基準の一部を改定。

<食品衛生法 豆腐の保存基準>
~ただし、成形した後水さらしをしないで直ちに販売の用に供されることが通常である豆腐にあってはこの限りではない

澤田さんたちの切実な訴えが実を結び、国内で特例として「あちこーこー豆腐」の販売が認められた。

本土復帰から2年の月日が経っていた。

ナニワ商事 澤田左行さん:
これはね大きな功績ではありますよ。沖縄のお豆腐屋さんからは「よくぞやってくれた」と、あの時の自分がやった行動は間違ってはいないと思います

沖縄の豆腐文化を守ろうと奮闘した人々。あれから50年スーパーの売り場には今も変わらず、「あちこーこー豆腐」が並び、私たちの食文化として息づいている。

(沖縄テレビ)

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