田んぼを囲む里山の活動場所は木々や花々の桃源郷

 見上げた真っ青な空を背景に、ツバキ、モクレン、河津桜、菜の花、大島桜、ソメイヨシノ、ハナモモなど、花々のリレーに目を奪われ、息をのむ。春の陽光が新緑を透かし、虫や鳥たちの歌は日に日に上達。里山空間を行き交う。ホーホケキョ。  そんなぜいたくに囲まれた田んぼ。土や泥の香りに、巡る1年を思い起こし、すがすがしく、心も体も踊る。オケラが胴と足をばたつかせて泥水の水面(みなも)を泳ぎ、初々しい緑色の子カエルは舌を出し入れしながら、この世界を見つめている。なんと平和な。  米作りと同時に、大学で受け持つ講義もスタート。6年前に引き受けた時は、経営学部なのに「スローライフ論」。昨年からは経済学部で「仕事と人生」。いずれにしても、なんじゃそりゃ(笑)。毎年受講生が増えて今年は137人。ほぼ1年生。毎年、初回の授業の冒頭、学生に三つの質問をする。「就職する? 自立する?」には、「就職を目指す」が圧倒的多数で毎年変わらない。  「モノは多い、少ないどっちがいい?」「暮らしたいのは都会? 地方?」という問いには、6年前は「モノは多い方がいい」「都会で暮らしたい」が圧倒的に多かったが、年ごとに減ってきて、驚くなかれ、ついに今年は逆転! 「モノは少ない方がいい」「地方で暮らしたい」が過半数、いや3分の2に迫る! 時代は変わる。  とすると、この講義で私の役目は「就職しない人生」の可能性を示すこと。地方には仕事がないので「企業を誘致せよ」とよく言われる。しかし「労働者の8割、仕事の上で強い不安 データが示すメンタル不調急増」(日経ビジネス)といった記事に示される通り、勤め人は仕事に疲弊し、地域の活動にほぼコミットできない。加えて、進出企業は損得で安易に撤退して根付かない。  だからこそ、ナリワイ!なのだ。半農自給しつつ、地域に役立つ小さな楽しいナリワイをいくつか持って生きてゆく。次の時代の「仕事と人生」のありようだ。 <高坂勝(こうさかまさる) 脱「経済成長」、環境、幸せの融合をローカルから実践。53歳>  ※次回は5月25日


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