行方不明になった坂本秀夫さん(左)。2018年に、妻と撮影した=江東愛子さん提供
長崎市でレストランを営んでいた江東さんの父、坂本秀夫さん=行方不明時(73)=は昨年4月、散歩に出たまま行方が分からなくなった。軽度の認知症があった。3日目の夕方、警察官に「今日で捜索は打ち切り」と告げられた。アンケートでは6家族が3日以内で捜索終了を伝えられたと回答。終了後に暮らしている自治体からフォローがあったのは2家族だけだった。 警察の捜索情報の開示も十分でなく、「どう動いてくれたのか分からない」「県外の捜索は『管轄が違う』と状況を教えてもらえない」との声も。携帯電話の通話履歴開示を通信会社に求めたが「契約者(不明者)でないと見せられない」と断られたケースもある。 「無事を信じている。捜すのをあきらめていない」と江東さん。一方、秀夫さんの妻で江東さんの母(77)は「自分の年齢を考えると、いつまで捜し、待ち続ける日々が続くのか不安。かといって、区切りをつけたくてもつけられない」と話しているという。捜索継続などを巡り意見が食い違い、「家族や親戚との関係が悪くなった」と答えた人も複数いた。 11家族全てが「金銭的に困ったことがある」と回答。自分たちで捜す費用がかさむのに、不明者の年金支給が止められ保険の解約もできない。「年金が止まるのに介護保険料は引かれる。生活の保障を見直してほしい」と訴える人もいた。 警察だけでなく地域の企業や住民グループなどが捜索に協力する「見守り・SOSネットワーク」は、国の後押しもあり全国の自治体に広がる。だが、アンケートでは、全員が「行方不明前は知らなかった」と答え、4家族が「誰が動いたか分からなかった」、6家族が「ネットワークが地元になかった」とした。 認知症介護研究・研修東京センターが2017年度に行った認知症の人の見守り体制構築に関する調査では、回答した1083市町村のうち、行方不明の心配がある人を事前登録する仕組みがあるのは57・9%。こうした自治体では「実際に早期の通報・発見につながった事例がある」との答えが目立った。調査にかかわり、NPO設立を支援した同センターの永田久美子副センター長(64)は「これまでは当事者の声を聞かずに捜索が行われてきた。当事者が苦しみや経験を訴えることで、自治体格差が大きい現状を変えたい。認知症の人が安心して外出できる安全な街づくりにつながれば」と話している。
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