大好きだった父親の突然の死をきっかけに体調の急変などをいち早く感知する‟健康デバイス”開発に挑戦する女子高校生。炭素の可能性を探り、独学でプログラミングなどを習得。目指すは衣服とセンサーを一体化させ洗濯もできる画期的なデバイスだという。まるでアイドルのごとく炭素を愛し研究に没頭する女子高校生を取材した。
呼び名は「オキャベンディッシュ」
福岡市の福岡雙葉高校2年生の岡部真央さん。周囲からは「1人前の研究者といっても過言ではない」と評されている。炭素にはまり授業以外は休み時間もひたすら研究に没頭する岡部さんについたニックネームが「オキャベンディッシュ」。友人たちが敬意を込めてつけた名前だ。物理学者の「キャベンディッシュ」と苗字の「オカベ」を合わせたもので、本人も気に入っているようだ。
この記事の画像(11枚)岡部さんは自他ともに認める炭素オタク。自宅を訪ねた際も炭素の同素体が全部載っているというお気に入りのTシャツで取材班を出迎えてくれた。「‶推し”みたいなものなので、ヲタ活(オタク活動)みたいなもの」と笑う。
当然ながら彼女の部屋には普通の16歳の女子高校生の部屋にありそうなアイドルの写真やポスター、ファッション雑誌などは一切ない。あるのは化学やプログラミングに関する本、英語の論文などばかり。岡部さんに尋ねると「普段から炭素の本を漫画みたいに読んでいる」と話す。高1の夏に初めて買ったという炭素の本は表紙が破れるほど読み込まれていた。
目指すは「洗濯できる」デバイス
岡部さんがいま、開発に取り組んでいるものは体の動きや心拍数を24時間記録し健康管理できるデバイスだ。完成すれば、家族もパソコンやスマホで装着した人の状況を確認でき、異変が起きた場合は通知が届くようになるという。さらに画期的な点は、デバイスの形態。衣服とセンサーを一体化させ、目指すは「洗濯できる」デバイスだという。
衣服型にした理由は、いつも着ている服と一体化させることで、装置を取り付ける抵抗感や当事者が面倒くさいと思う気持ちをなくさせるため。岡部さんは将来「硬いセンサーを、いつかテープみたいなペラペラで軽いセンサーにしていきたいと思っています」と熱く夢を語った。
また岡部さんは、充電不要の自家発電する生地も開発中だ。着目したのは炭素の仲間、同素体であるカーボンナノチューブ。「熱電発電の効率がめちゃめちゃいいらしくて、かつ軽くて強靭なんです」と、目を輝かせながら話す岡部さん。生地にカーボンナノチューブを使うと、自分の体温と空気の温度差で発電でき、センサーを24時間稼働させることができるというのだ。
岡部さんのアイデアについて高校の科学部の顧問の藤井新次郎教諭も高く評価している。「充電不要で衣服型。私が知る限りはそういった製品はまだ生まれていないですし、例えば高齢者の方々が服を着て、情報が集約されて管理できる仕組みが実現したら、先進的な取り組みになると思っています」と実用化に期待を寄せる。
中学2年のときに突然、父親が…
学校の授業時間以外は、すべてを研究に注ぐ岡部さん。実はデバイス開発のきっかけは、3年前の父の死だった。「中学2年生の時に父が突然死してしまって、自分が何もできなかったのが本当に悔しくて」と当時を振り返る。持病など健康面に何も問題なかった父親が会社で突然倒れ、そのまま帰らぬ人になってしまったのだ。父親に一体、何が起きたのか?岡部さんは「もしリアルタイムで健康状態がわかっていたり、体調の急変がわかっていたら、父の突然死を防げたかもしれないなと思って」とデバイスの開発を始めた思いを語った。
その後、岡部さんは専門的なプログラミングや化学の知識を独学で習得。時には全国各地の大学や研究所を訪れ、開発に必要な技術を身に着けていった。研究に打ち込んだこの3年、何よりの支えは父親の存在だったという。父の遺骨が入ったペンダントをいつも身に着けている岡部さん。「研究がうまくいかない時も父が側にいてくれると思うことで、うまくやっていけています」と父への思いを語った。
岡部さんが自宅で使っている研究部屋は、かつての父親の書斎。「この部屋にいると気持ちが入るというか、早く作らなきゃっていう気持ちになれる。お父さんはなんでも応援してくれるので喜ぶかな、どうだろう」と呟いた。
岡部さんの研究は2024年、福岡県青少年育成県民会議の事業で社会課題の解決につながるアイデアとして採択され、研究活動費の助成金を受けることになった。九州大学の協力も得ながら2025年1月の完成を目指している。「このデバイスを完成させて、すべての家族の方々が、孤独死や突然死で悔しい思いをせずに楽しく生きていられる世界をつくりたいと」。岡部さんは力強く思いを語った。
(テレビ西日本)
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