男子リーグに参戦するU-12女子サッカーチーム「クイーンズ・パーク・レディース」は無敗でリーグ優勝を果たした(写真:The Queens Park LadiesのFacebookページより)

イングランド・ボーンマスのU-12女子サッカーチーム「クイーンズ・パーク・レディース」は、シーズン残り4試合の時点で数学的にリーグ優勝が確定的となった。

だが、彼女たちは確実となった栄冠に甘んじることなく、さらに一歩踏み込むことを決意した。リーグ優勝するだけでなく、一敗もせずに優勝できたとしたら——。

しかもその挑戦を、男子リーグに参戦する唯一の女子チームとして成し遂げるのだ。

「無敵艦隊」女子が語る興奮

そして、彼女たちはそれをやり遂げた。クイーンズ・パーク・レディースは22試合を無敗で乗り切り、「インビンシブルズ(無敵艦隊)」の異名を手にした。アーセン・ベンゲル監督率いるアーセナルが2003-04シーズンのプレミアリーグで達成した偉業を彷彿とさせる称号だ。

ミッドフィールダーのミリー・レイ(11)は、「体格で勝る男子チームを打ち負かすところまで来られたのはすごいと思う」と話した。「私たちは巻き返して、彼らをやっつけた」。

インタビューで選手たちは互いを称賛し合い、親友でもあることが試合に役立ったと力を込めた。

チームのキャプテン、オリビア・グリーン(12)は、「チームを本当に誇りに思うし、嬉しい」と述べた。「予想していなかったけど、できると思っていた」。

スカイラー・ヘンシャル・ディックス(11)は、「私たちが強いチームだとは分かっていた」と語った。しかし、シーズンを振り返って、自分たちがやり遂げたことに驚きを深めていると言う。「実際にやり遂げてみて、信じられないという思いが強まった」。

クイーンズ・パーク・レディースの失点は、22試合でわずか11点。チームの監督を務めるオリビアの父、トビー・グリーンによると、これは「素晴らしい数字」だ。

その功績は、ゴールキーパーのマライア・シルバ(12)によるところが大きい。「必要な場面で、自分の仕事をした」とマライアは話す。特にPK(ペナルティーキック)とか、「すごくプレッシャーがかかる場面もある」。

マライアはブラジルからイギリスに移住してきた3年前にチームに加わった。ブラジルでプレーしていたマライアは男子と対戦することに慣れていた。「夢はプロのサッカー選手になること」。マライアは大きな野心を抱いている。

男子は「間違いなく私たちをなめていた」

記念すべき2023-24シーズンが始まった当初、クイーンズ・パーク・レディースが対戦相手の男子チームから本気で相手にされるまでには、少し時間がかかった。

ディフェンダーのエディス・ラッグ(12)は、「特にシーズン序盤は、まだ対戦したことのないチームが多くて、馬鹿にされることもあった」と振り返る。「彼らは間違いなく私たちをなめていた。でも、私たちは彼らと同じくらい強いことを証明した」。

同じくディフェンダーのスカイラーによると、初戦の相手は女子チームには簡単に勝てると思い込んでいたようだ。しかし、クイーンズ・パーク・レディースが6-0で圧勝すると、相手チームは「かなり面食らっていた」。

ほかの選手たちも同様の瞬間を覚えている。キャプテンのオリビアは、対戦相手の選手について「ときどきイラついていることがあった」と話した。「ちょっと幼稚だなって思う」。

男子チームのそうした態度は、むしろモチベーションを高める要因になっていると、チームでコーチをしているエディスの父、クリス・ラッグは語る。「サッカーのピッチは、とても平等な環境なんだ」とラッグは言う。「本当の障壁は、ピッチの外にある」。

女子サッカーは急成長中のスポーツだ。イングランドでは、女子サッカーの盛り上がりの多くは、女子代表チーム「ライオネシス」の活躍によるところが大きい。ライオネシスは2022年のヨーロッパ女子選手権で優勝し、男子チームにはいまだ成し遂げられていない偉業を達成。翌年の女子ワールドカップでは決勝進出を果たした。

ライオネシスは、11歳と12歳の少女たちで構成されるクイーンズ・パーク・レディースの目標となる存在だが、クイーンズ・パーク・レディースの選手たちは自らも人々を刺激する存在になりたいと話している。

「ほかの女の子たちが私たちの活躍を見て、サッカーをするきっかけなったらどんなにすばらしいか」とエディス。

女子チームが男子リーグで戦う理由

イングランド南部の海沿いに位置するボーンマスでは近年、女子サッカーへの関心が高まっているとグリーンは話す。複数の年齢層でチームを編成しているこのクラブが約6年前に発足した当時は、チームへの加入を希望する女子選手はそれほど多くなかったという。当時は女子リーグがなかったため、クイーンズ・パーク・レディースは男子リーグでもプレーしていたが、結果は今とは大違いだった。

「最初の数シーズンは、2年間で1勝と引き分けが数試合。かなりきつかった」とグリーンは振り返る。

その後の数年間、選手たちは男女問わず対戦しながらトレーニングに励んだ。チームがU-12のリーグに上がった際、グリーンは地元のサッカー連盟、ハンプシャー・フットボール・アソシエーション(FA)に連絡を取り、若干の躊躇を乗り越えて、女子チームを男子リーグに参加させることに成功した。

「ハンプシャーFAは『やってみよう』と言ってくれた」とグリーン。クイーンズ・パーク・レディースは今シーズンを1位で終えたことで、来季はディビジョン2に昇格することが決まった。そこでは、現在の9人制ではなく、初めて11人制で、より広いピッチでプレーすることになる。

「彼女たちは本気なんだ。できる限り高いレベルでプレーしたがっている」とグリーンは言う。

グリーンは、このクラブで16歳から始まるレディースチームを発足させ、トップリーグに到達するまで昇格を重ねていくつもりだと語った。「それが大まかな計画だ」。

(執筆:Claire Moses記者)
(C)2024 The New York Times

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