校舎に校名を掲げる宿利政和町長(左)と梶原敏明教育長=大分県玖珠町で2024年4月15日午前9時2分、李英浩撮影

 大分県玖珠町に4月、不登校の小中学生を受け入れる「町立学びの多様化学校」が開校した。公立の小中一貫校としては九州初。新型コロナウイルス感染拡大によって不登校の児童生徒が急増したため、関係者が尽力し、発案から1年弱での「スピード開校」が実現した。子供の探究心に火を付けることを重視した独自カリキュラムを用意しており、新たな取り組みの成果が他校に波及することを期待する声もある。【李英浩】

不登校経験した子供受け入れ

 学校は、不登校の子供の支援施設「わかくさの広場」がある場所に開校。今年度は町内外から小学生4人、中学生12人が通う。4月16日の初登校では、午前9時半ごろ、子供たちを乗せたバスが学校に到着し、教職員ら約10人が笑顔で迎えた。

 教員が児童生徒に自己紹介する入校式を体育館で終えた後、子供たちはそれぞれの教室に移り、級友や教員たちと談笑。町教育委員会の梶原敏明教育長は校舎を巡回しながら様子を眺め、「来てくれるかどうか心配だったけど、今日を迎えられてほっとしました」と胸をなで下ろした。

 同町が多様化学校の設置に乗り出したのは、コロナ禍によって不登校の児童生徒が急増したためだ。町教委によると、2014年度に7人だった不登校の小中学生は22年度には47人まで増えた。

 危機感を抱いた梶原氏は、設置条例の制定や文部科学省への申請を急ぎ、1年弱の短期間で開校までこぎ着けた。事務手続きや関係者への説明など、あらゆる手続きを同時に進める「突貫工事」だったが、梶原氏は「子供にとっての1年は非常に大きい。一日も早く手立てを打つ必要があった」と振り返る。

 学校は、生活リズムが不規則な子供への配慮などから、登校は午前9時半、下校は午後3時半に設定。独自カリキュラムには、子供同士が輪になってコミュニケーションを取る「対話」や、自ら設定した問いにグループで取り組む「探究」などがあり、子供の問題意識に寄り添った。

 このため、学習指導要領が定める教科の学習時間は、履修の目安である標準時数を下回るが、町教委は授業内容の工夫で学力向上を目指す。午前中にある数学や国語の授業は、冒頭10分で教科書の内容を伝えた後、各自の習熟度に合わせて学習してもらうことなどを想定している。

 文科省からの出向者で開校に携わった町教委の上田椋也さんは「年齢は中3でも、不登校で学習が中1で止まっている場合、通常のカリキュラム通り教えても理解できず、どんどん取り残されることになりかねない」と説明し、多様化学校では習熟度別の学習が適していると強調する。

 こうした独自カリキュラムの採用は「(他校と)足並みがそろいにくい」(小原猛校長)という課題もあるが、新たな試みに期待を寄せる声もある。

 不登校問題に詳しい大分大大学院教育学研究科の藤村晃成准教授(教育社会学)は、「探究」など各自の問題意識を尊重し、柔軟に学習を進める姿勢に注目。「他の学校現場の関係者が実現したい、と考えている理念と内容を同じくするものが多い」と分析する。

 大分では先進事例となるため、可能な限り取り組みを可視化して検証することが望ましいとした上で「多くの大人の視線が学校に向くことで、子供が『いろんな人たちが見てくれているんだ』という安心感を持てるようにもなる。外部の人間が関わる機会を持ち続けることが大切だ」としている。

学びの多様化学校

 不登校経験のある児童生徒らが在籍し、学習指導要領に縛られず授業時間を減らすことなどができる学校。2004年に「不登校特例校」として導入され、23年8月に改称した。登下校の時間にゆとりを持たせたり、指導要領にない独自カリキュラムを設けたりもできる。不登校の児童生徒は10年連続で増加し、22年度の国の調査では過去最多の約29万9000人。こうした状況から国は将来的に全ての都道府県と政令指定都市に計300校を設置する目標を掲げており、24年4月までに35校が設けられた。

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