袋に入れず放置された紙の破片を、ほうきで集める職員。可燃ごみの収集日だが、空き缶も多く出されている(写真:筆者撮影)この記事の画像を見る(7枚)外国人居住者の増加で、たびたびトラブルになるのが「ごみ問題」だ。ごみの廃棄方法は自治体によってルールが異なり、分別方法が細かく指定されている。日本人でもわかりづらく、気を使うことも多い中で、外国人に周知をはかり、協力をお願いするのはなかなか大変だ。立教大学コミュニティ福祉学部の藤井誠一郎准教授による連載「ごみ収集の現場から」第26回は、外国人居住者の多い地区で可燃ごみ収集を体験し、知り得た実態と今後に向けての提言を掲載する。

正月のごみ収集を体験して

どこの地方自治体においても、ごみが1年で一番多くなるのは正月明けだ。

筆者はごみ出しの惨状やそれを収集する過酷な作業を体験し、清掃行政の実態の把握に努めており、今年は愛知県豊田市で1月4日、可燃ごみ収集を体験させて頂いた。

正月明けはごみ量が多くなるため自治体毎の状況に応じて特別な体制が構築される。豊田市の旧豊田地区の可燃ごみ収集は、自治体が直営で業務全般を担っているため、自らのリソースを融通しあって特別体制を構築。具体的には粗大ごみ収集を休止し、その人員や機材を可燃ごみ収集の応援に回す形で収集体制を整える。そのうえで正規ルートの清掃車では取り切れない分を算定し、清掃事務所にある司令塔の指示を受けながら応援車が機動的に収集していく体制で臨んでいる(写真:筆者撮影)

豊田市では、指定日に分別したごみや資源を、各地に設置された「ごみステーション」に出すことになっている。

ごみステーションの管理は、地域住民が運営する任意団体の「自治区」が行っている。また、誰がどのごみステーションを使うかも「自治区」が決定している。

家庭ごみは、「資源」(ペットボトル・ガラスびん・飲料缶・プラスチック製容器包装)、「燃やすごみ」、「金属ごみ」、「埋めるごみ」、「有害ごみ」、「粗大ごみ」、「危険ごみ」に分別するのがルールだ。

今回、体験した中では、これまで見たことがないほど、うず高く積み上げられた「ごみ山」のステーションがあった。

多くの世帯が利用している正月明けのごみステーションは、ごみ袋が山のように重なり、あふれ出ていたが、しっかり分別されていた(写真:筆者撮影)

この場所は多くの世帯が利用しており、正月明けはごみ量が増し、あふれかえるようになっている、ということだった。

一方で、排出量は多いが、しっかり分別されたいわゆる「良質なごみ」ばかり。これは、地域内で分別や秩序あるごみ排出が徹底されているからであり、地域運営がしっかりとなされている証左だと言えよう。

ルールを無視したごみの数々

次に向かったのは、日系ブラジル人の居住率が高い団地のステーションだった。

このステーションでは、多くのごみに対応するため、清掃車のリフトに引っかけて引き上げ、反転させてごみを収集する「ダストボックス」を置いている。

本来なら、この「ダストボックス」があるおかげで、短時間でスムーズに収集できるはずだ。

しかし実際は、ボックス外にごみが散乱しており、清掃車が到着する前に応援の清掃職員が、それらを集めてボックスに入れる作業が生じていた。

そのうえ、指定日ではない資源の排出、指定袋でない袋での排出、袋に入れていない排出、段ボールに入れての排出、などルールを無視したごみが多い。

分別が全くなされていないごみも多々見受けられた。

とりわけ、生ごみとともに瓶や飲料用の缶が入っているごみがたくさんあり、袋から出して分別したかったが、さすがに生ごみを触るのはためらわれた。

また、手で破ったり、引きちぎったりした紙片がそのままステーションに排出されていた。

袋に入れて出してくれたらよいものを、そのまま置かれているので、作業員が箒(ほうき)とちりとりで集めなければいけない。

この日は早朝に雨が降ったため、紙片が濡れた地面にくっついて、掃き集めるのが大変だった。それでも清掃職員の方々は黙々と作業し、その後の作業となるダストボックス収集ができる状態にしていった。

このように、ダストボックス外の状況だけを見ても、ごみの分別がなされていない様子がわかった。そうなると、ダストボックス内のごみが適切に分別されているとは、にわかに信じがたい。

この日は可燃ごみの収集日だが、ダストボックス外にあふれ出ているごみを見ただけでも、ルールが守られていない様子が見て取れた(写真:筆者撮影)

ダストボックスは中身の確認をせず、収集車両に積み込んでいくため、分別状況がわからないまま収集されてしまう。

ごみの形状によっては清掃工場の焼却プラントに悪い影響を与え、最悪、焼却停止に至る恐れもある。しかし機械的な収集ではチェックする術がない。作業を行いながら、清掃工場のプラントへの影響を心配した。

豊田市は清掃指導や多言語対応の看板を作製し、自治区や地域のボランティアの方とともに、外国人向けにごみの分別方法や粗大ごみの出し方など周知している。

しかし実際の行動につなげてもらうのは難しい。「ただ排出をしっかりしてほしい」、それが清掃職員たちの心の叫びだと感じた。

海外のごみ分別事情はどうか

筆者は2019年に在外研究でアイルランドに1年滞在した。

そこでのごみ排出は、①General(黒/一般の家庭ごみ)、②Recycling(緑/資源ごみ)、③Compost(茶色/生ごみ)の3分別だった。

アイルランド・ダブリン市の戸建住宅にあった車輪付きごみ箱(写真:筆者撮影)

ごみ収集は民営化されており、契約すると②と①③の組み合わせで2週間に1度、家の前にwheelie bin(車輪付きごみ箱)を出して収集してもらう。

筆者の居住していたアパートのごみ分別はかなりいいかげんで、①の中に②③の資源物が多々混入されていた。

それを収集業者が自らの倉庫に持ち帰って機械や人の手で選別して資源を抜き取り、それ以外のものを清掃工場に搬入して焼却する形となっていた。

ダブリン空港(アイルランド)に設置されていたごみ箱も3つの色分けで分別を促していた(写真:筆者撮影)

日本人にとってはごみの分別は当然となっており、いわば日本の文化であると言える。一方、海外では日本のような細かな分別は求められていないため、日本で行われている分別の習慣がなかなか身につかないのかもしれない。

芽生えてほしい「お互いに」思いやる精神

とはいえ、その地域に住む限り、自治体が定めたルールに従ってごみの排出を行ってもらう必要はある。

ごみの排出曜日を守り、しっかりとごみを分別し、自分たちのごみステーションを綺麗に使用するのは、身の回りの環境を清潔に保つことにもなる。

またそのことは、ごみの収集を担う清掃職員の方々への敬意を払うことにもつながる。これらは日本の文化であり、多文化共生のためには、外国人から日本型の一連のごみ排出方法を尊重してもらう必要がある。

豊田市の一般家庭用・指定ごみ袋(写真:筆者撮影)

「ルールを守ってもらえないならば守らせる」という方向に舵が切られてしまう前に、外国人であっても「郷に入っては郷に従え」の意識を持ち、自発的に異文化を学ぶ意思が芽生えてほしい。

同じ意味で「When in Rome, do as the Romans do(ローマにいるときは、ローマ人のするようにせよ)」という英語のことわざがあるのだから。

また、自治体としては、分別の案内だけでなく、分別する理由や意味を粘り強く説明し続けてほしく思う。外国語を駆使して説明する清掃職員の登場にも期待したい。

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