旧ソ連が色濃く残るCOP29の開催国アゼルバイジャン。「街は今、閉鎖されている」市民がこう話すように、道路はガラガラ走る車もまばらだった。

立っているだけで底冷えする寒さのアゼルバイジャンの首都バクーで開かれた国連の気候変動対策会議・COP29。

交通規制のため、会場にはタクシーだけでなく関係車両もほとんど近づくことができず、会場から遠く離れたバス停でシャトルバスに乗り換えて会場周辺のバス停で下車、そこから更に会場まで歩くようになっていた。

首都バクーの空はどんよりとしていた
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バクー市内は、建物や、どんよりと立ち込める灰色の雲が旧ソ連を彷仏とさせた。

それだけではない。街中では、市民が集うスーパーマーケットや食堂では英語が通じないことが多く、「ワン、ツー、スリー」という数詞すら理解してもらえず、彼らが翻訳ソフトなどを使って「ロシア語ならしゃべれるよ」と伝えてくると、旧ソ連の地であることが改めて感じられた。

“またトラ”で「粛々とやるだけ」

アメリカのトランプ元大統領が選挙を制した、いわゆる“またトラ”についてはCOP会場内でも懸念する声が様々な場所で多く聞かれた。

一方で、参加した都市の関係者らからは「第一次トランプ政権の時もそうだったが、現場はやるべきことを粛々とやるだけ」と“割り切った”声もあがった。

トランプ氏再登板に揺れたCOP29

都市行政の現場に携わる人々は、気候変動による大雨、洪水、干ばつなどに直面し、より現実的な対応を求められるから、割り切らざるを得ないのだろう。

日本のイベントブース「ジャパンパビリオン」

また、日本のイベントブース「ジャパンパビリオン」には例年通り、数多くの脱炭素化のため新技術や、太陽光発電・リサイクル等の技術など“現実的”な展示がずらりと並んだ。

一方で他国、特に資源の輸出国は一見サロン風の豪華なセットで、セミナーも政治的な意見表明が多く見られた。

資源輸出国と輸入国の間には、ここでも大きな“格差”が感じられた。

茨城の公立高からハーバードに現役合格

「日本は、欧米に比べると環境問題・エネルギー問題における若者のプレゼンスがそこまで高くないと思いますので、私も若者としてどういったことを考えているのか、それを話したいと思いました」

2021年に茨城県の公立高校からハーバード大学に現役合格した松野知紀氏(22)は、現在はハーバード大で環境科学と公共政策を専攻、オーストラリア政府と連携して調査を行うなど、エネルギー政策について強い関心を持っている。

ハーバード大で環境科学と公共政策を専攻する松野知紀氏(22)

松野氏はCOP29でパネルディスカッション等に参加、そのうえで再生エネルギーを現実的に考える必要性を強調した。

「資源国であれば輸出輸入こちらもコントロールできる立場にあるのでアグレッシブな政策を取ることできますが、日本は輸入に完全に頼り切っている国です。クリーンエネルギーにシフトしなきゃいけないのですが、経済構造自体がかなり化石燃料に頼っています。それを本当に根本的に変えるのは時間がかかると思うので、もう少し現実的なクリーンエネルギーへの移行のプランを考える必要があると思います」

そして、それぞれに合った再エネを選択することが重要だという。

「再エネは多くが国土の特徴に影響されます。太陽光であれば太陽光が注がれるとこにパネルを置かなければならないし、風力であればしっかり風が吹くところ、なおかつ広大な土地が条件になります。国や地域、それぞれに合ったエネルギー源をどう見つけられるかだと思います」 

ハーバードの日本人留学生がゴア元副大統領と話した事

さらに松野氏は、米エネルギー省長官などと意見交換したほか、アル・ゴア元米副大統領と面会。

アル・ゴア元米副大統領は、映画「不都合な真実」などで地球環境問題を訴え、ノーベル平和賞を受け、現在はCO2排出量を国より詳細な州レベルで把握、そのデータを月別に精査し「ClimateTRACE」として、無料で公開している。

アル・ゴア元アメリカ副大統領と

松野氏は、この「ClimateTRACE」について、ゴア氏に「これまで排出量のトラッキングは先進国のデータはあったが、発展途上国のデータは不足していた。このように透明性の高い情報であるからこそ、特定の産業団体やステークホルダーから圧力を受けることがあるのではないのか」と問いかけると、「基本的に排出量の話は何をやっても反発は来る。気候変動に役立つ科学的成果をだすことが重要だ」とゴア氏は話した。

長年環境問題に取り組む難しさ、その一方で諦めない気持ちが伝わってくる発言であるとともに、ゴア氏は日本の水素の行く末に関心を寄せていたという。

東京で世界初のグリーン水素トライアル取引へ 

「早速今年度、市場形式として世界初となるグリーン水素のトライアル取引を実施いたします(Now,this fiscal year,we will conduct the world's first trial trading of green hydrogen in a market environment.)」小池都知事は今回のCOPで、再生可能エネルギーを活用したグリーン水素について世界初となるトライアル取引を今年度中に開始する考えを示した。

小池都知事もCOP29で発信した

このマネタイズ=収益化を目指す動きについて松野氏は「マネタイズは日本が苦手な分野」と指摘したうえで「日本で市場を作って、そこにちゃんと投資が来るようにしてプレイヤーがいる状況を作ってやれば、日本でも水素市場ができるポテンシャルはあると思います」と話す。

その一方で「例えば、風力発電の製造能力のある会社は日本にあるので、需要、国内市場があれば、国産で全て補うことができます。海外に頼らずにどれだけ国産でやれるか、国内で完結してエネルギーをちゃんと供給できるという状況を作るってことが大事なんじゃないかと思います」 

先進国と途上国の対立で交渉難航

COP29は、途上国の温暖化対策に充てる資金支援の規模を、2035年までに少なくとも年3000億ドル(約46兆円)とする目標を盛り込んだ成果文書を採択し、閉幕した。

地球規模の温暖化対策を進めるうえで、資源輸入国である日本の果たせる役割は、技術や資金の提供など限られざるをえない。

2023年度には日本の発電量の脱炭素電源比率が震災後初めて3割を超えた

そのような中で、エネルギー自給率をどこまで上げることができるのか、どのようにクリーンエネルギーに移行できるのか、議論に終始することなく、現実的な道筋を示し実行していくことが、今、強く求められているのではないか。

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