カウンターに立つ大石和宏さん(左)=静岡市葵区のクロッホモアで2024年11月24日午前0時55分、最上和喜撮影
写真一覧

 果物や野菜、ハーブを液体窒素や蒸留器、低温調理など既成概念にとらわれないアプローチで蒸留酒と合わせて作るカクテルをミクソロジーという。その技法を取り入れ、新たなテイストを探求し続ける「カクテルラボ」が静岡市にある。バー・クロッホモア。オーナーバーテンダーでミクソロジストの大石和宏さん(43)は「可能性は無限大。アズ・ユー・ライクな1杯で堅苦しいバーのイメージはがらりと変わる」と魅力を語る。【最上和喜】

 ミクソロジーは「mix(混ぜる)」と接尾辞「ology(―論)」を結びつけた造語。2000年代に欧米で流行し、近年アジアでも人気になった。日本におけるパイオニアとして知られるバーテンダー、南雲主于三氏の著書によると、ミクソロジストは「ときに調合師であり、科学者であり(中略)カクテルの文化を開拓していく存在」という。

 例えば、大石さんが考案したキンモクセイのカクテルがある。秋を感じさせる特徴的な芳香は、ベータイオノンやガンマデカラクトンなどの化学成分に分けられる。大石さんはそれらを含む桃の果汁やコンデンスミルク、ハーブ類を調合することで、キンモクセイの香りを再現する。

 それは「分解と再構築」と呼ばれる考え方に基づく。キンモクセイのリキュールやシロップは使わず、あえて別の材料を組み合わせることで「飲み口ではなく、飲んだ後に鼻から抜ける香りにキンモクセイを感じる」繊細なカクテルになる。

ミクソロジーのコンセプトやレシピが書き込まれている大石さんのアイデアノート=静岡市葵区のクロッホモアで2024年11月21日午後11時48分、最上和喜撮影
写真一覧

 料理との調和も意識している。静岡茶を使ったカクテルやモクテル(ノンアルコールカクテル)は、深蒸し茶にウイスキーや日本酒、植物を水蒸気蒸留したフローラルウオーターなどをブレンド。茶農家を訪ねて生産過程を学び、料理の味を損ねない茶の風味の生かし方を研究した。アイデアノートには、コンセプトや材料の特性、レシピなどがびっしりと書き込まれている。

 静岡市出身。高校卒業後、運送業などを経て29歳で出会ったのが、バーテンダーという職業だった。同市の老舗バー・ブルーノート1988のカウンターに立ち、カクテルを作るうちに、未知のテイストを追い求めるミクソロジーの世界に興味をひかれた。

 だから、自分の舌で確かめようと思った。都内にある南雲氏のバーで飲んだ「ホワイト・トマト・フィズ」は忘れられない。トマトやバジルを遠心分離した無色透明のエキスで作るカプレーゼのようなカクテル。食材の可能性を引き出す発想や技術に驚いた。日本茶を使用したティーカクテルなど静岡でミクソロジー・バーの先駆的存在だったノンエイジ(同市葵区鷹匠、現ノンエイジ・コンセントレ)にも足しげく通い、エッセンスを学んだ。

 ブルーノートの閉店に伴い、2020年12月、クロッホモアをオープン。店名はゲール語で自身の名字を意味する。「飲み物は料理を完成させるもう一つのソース。料理と同じだけの情熱をグラスに注いだら、どんなに素晴らしい時間になるだろう」。必然的に料理にもこだわり、旬の地元産や無添加の食材を選んでいる。新鮮な地魚を自らさばいて握るすしは、売り切れご免の人気メニューだ。

 11月下旬のある夜、店は常連や初めて訪れた客でにぎわっていた。開店以来、通い続けている会社員の近藤径子さん(43)はお酒が苦手だが、静岡茶のモクテルで「ちょっと酔ったかも」と上機嫌。大石さんは言う。「お酒に詳しくないとか、下戸だとかは気にしないで。ミクソロジーがそんな『垣根』を取り払ってくれる」。クロッホモアは10日、4周年を迎える。

クロッホモア

 静岡市葵区七間町10―9 シンワビル5階。ミクソロジーやスタンダードカクテル、旬の食材を生かした小料理。営業時間は午後6時~翌午前1時、日曜定休。詳しい営業日は公式インスタグラム(@cloch_mhor)、予約などの問い合わせは電話(070・8521・0465)へ。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。