気温が下がり、温かい商品が恋しい季節になった。コンビニエンスストアに入ると、レジ横の「肉まん」や「あんまん」を思わず買い求める人も多いのでは。「硬いアイス」で知られる「あずきバー」で有名な津市の老舗メーカー、井村屋にとっても冬の看板商品で、1964年の販売開始から60周年を迎え、「高級」と「復刻」をキーワードに新たな展開を狙っている。
「専門店のようなおいしい肉まんを作りたい」と2005年に入社した商品開発部の赤阪忠厳さん(42)が60周年記念として開発に約1年を費やしたのが、地元・三重を代表する高級食材を使った「伊勢海老肉まん」と「松阪牛すきまん」だ。
「伊勢海老肉まん」は鮮度にこだわり、伊勢志摩で水揚げされたイセエビを使う。加熱すると身が縮まってプリッとした食感が失われてしまうことから、急速冷凍し、味付けはエビの殻やエビミソで取っただしを使い、風味が豊かに仕上がった。「松阪牛すきまん」は肉の食感を残しながら、甘い香りを出すために牛脂を使い、すき焼き風に味付けした。
具材を包む真っ白な皮は風味とうまみがあり、もっちりとした食感にするため、「二段発酵製法」として発酵回数を増やした。手包みしたような本格的な食感に、消費者からは「外側もおいしい」という声が寄せられているという。10年前の発売50周年時には皮の改良にも携わり、肉まんの中も外も知り尽くす赤阪さんは特別仕様のパッケージも含めて「贈り物として喜ばれると思う」と太鼓判を押す。
井村屋ではこれまで600種類を超える「オリジナルまん」が誕生している。1977年の「カレーまん」をはじめ、「ピザまん」「シーフードまん」のほか、パンダやブタなどの動物やキャラクターを模した商品や、最近では動物性原料を使わずに肉まんのおいしさや食感が楽しめる「大豆ミートまん」、2020年からは、具材が入っていない「すまん」も販売している。
多彩な「オリジナルまん」の中でも記念の年に復刻され、いずれも数量を限定して販売されるのが、「イカスミまん」と「プリンまん」だ。
食品業界でタブーとされた黒い見た目が強烈なインパクトで大ヒットした「イカスミまん」は1994年に販売された。皮の生地にイカスミパウダーを練り込み、マカロニ入りトマトソースの味わいが特徴的な具材が包み込まれた。98年に誕生した「プリンまん」は卵の風味を感じるカスタードとほろ苦いキャラメルソースが楽しめ、女子中高生に人気を誇った。
元々和菓子を製造、販売していた井村屋が肉まんやあんまんを手がけるようになったのは、当時の井村二郎社長が百貨店などで販売されていた高級品の「中華まん」を大衆向けにしようと考えたのがきっかけだった。パンや菓子を作る技術を生かし、開発に乗り出した。64年には「冷凍まんじゅう」として、せいろで蒸すことを前提にパッケージに「蒸して召しあがる」と表記して発売を始めた。
当初は一般家庭に冷凍庫が普及していなかったこともあり、売り上げは伸び悩んだが、翌65年に機械メーカーと共同してスチーマーの開発に着手。68年から関東地区で商品を温めて販売するようになると、大きなブームになったという。
以降、機械化を進め、70年には1日に100万個を製造可能な生産体制が整った。さらに家庭で電子レンジが普及すると、87年にはレンジ用商品を発売した。
冷凍や冷蔵の技術の発達ほか、消費者の好みなど時代に合わせて変化を続けてきたことが、長年愛されてきた理由でもある。赤阪さんは「常に進化する商品でありたい」と看板商品の100周年も見据えているという。
「伊勢海老肉まん」と「松阪牛すきまん」は2個ずつ入った詰め合わせ、「イカスミまん」と「プリンまん」はそれぞれ1袋2個入りで、いずれも井村屋ECサイト(https://www.imuraya-webshop.jp/shop/)で購入できる。イセエビと松阪牛の記念商品は津市の百貨店「松菱」や精肉店「朝日屋」の店頭でも販売している。【下村恵美】
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