群馬、福島、栃木、新潟各県にまたがる尾瀬国立公園で、登山者から「入域料」を徴収する案が浮上している。主要な入山口がある群馬県の山本一太知事が口火を切り、環境省や栃木県も検討を許容する構え。唐突にも見える提案だが、取材を進めると35年前の先進的すぎる構想が見えてきた。
4日の定例記者会見で「環境省や関係自治体と連携し、入域料徴収を検討したい」と述べた山本知事。湿原の保全や木道の整備費用などに充てるのが目的だ。
ミズバショウで知られる尾瀬には、登山者に湿原を踏み荒らされないよう、総延長65キロの木道が敷かれている。
国や自治体、土地の一部を所有する東京電力などが管理するが、寿命は約10年。資材をヘリコプターで運び人力で敷設するため、1メートル整備するにも約20万円かかる。7キロ分を管理する群馬県では、毎年700メートルずつ敷き直そうとすれば1億4000万円必要になる計算だが、今年度は約2300万円しか捻出できなかった。
同県が管理するトイレで任意で集めるチップ(100円)は人件費や金融機関に預け入れる手数料が大きいこともあり、入域料の構想が浮上した。
「新たなリソース獲得が必要」という問題意識は環境省にも共通する。山本知事の発言に先立ち、同省関東地方環境事務所は3月、自治体など関係者が定期的に集まる尾瀬国立公園協議会で、新たな財源を議論する方針を示した。選択肢に挙げたのが「入域料、企業版ふるさと納税、クラウドファンディング」。明確に反対する声は出なかった。
同事務所によると、実は1989年にも当時の環境庁が、トイレや木道の整備に充てる「入園料」の徴収を地元に提案した。
ハイキングブームで登山客が押し寄せ、トイレの汚水で湿原の環境が悪化した時代。前年の88年5月31日付の毎日新聞によると、大石武一・元環境庁長官ら有志が「大人2000円、小人1000円」程度の徴収を提言していた。
今でこそ環境保全やオーバーツーリズムの観点から登山者の負担を求める自治体が増えたが、35年前には早すぎた。地元自治体に「金持ちだけが来られる尾瀬ではいけない」などと反対され、構想は頓挫した。
適切な金額や、広大な敷地内で徴収する場所や仕組み――。今回も課題は山積するが、群馬県は、関係者の合意を得られれば今後の実証実験も視野に入れている。
立地県の一つである栃木県の福田富一知事は6日の定例記者会見で「維持管理費(の確保)、環境保全ということを考えれば、徴収したいという気持ちは十分理解できる」とコメントした。今後、群馬県側に詳細を確認するという。【田所柳子、有田浩子】
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