泡盛がユネスコの無形文化遺産に登録され喜びの声が上がった。その一方で、泡盛業界が直面し続けているのが2004年をピークに減少傾向に歯止めがかかっていない「泡盛の出荷量」の問題だ。

今後、2032年度には酒税の軽減措置が廃止され、業界を取り巻く状況は一層厳しくなることが      予想されるなか、県内の酒造所や卸売業は泡盛に新たな価値を生み出すべく、あらゆる戦略を打ち奔走している。

価値観を伝えるツアー

豊見城市にある忠孝酒造は、質の高い古酒を醸成するために甕の開発も手掛けるなど、蔵元であり窯元でもある県内唯一の酒造所として知られている。

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「泡盛文化の継承と創造」を理念に掲げる中行われているのが「手造り泡盛体験」。

「伝統的酒造り」の要件である原料となる米を蒸すことや、麹菌を用いて撒麹をつくることなどの体験ができる。

泡盛の味や香り探求ツアー

「文化の継承」に加え、忠孝酒造では2023年から泡盛の「価値の創造」に乗り出している。
それが、泡盛の味や香りを探求するツアーだ。

大城勤社長自らが「案内人」を務め、泡盛が持つ様々な表情を知ってもらい、親しみやすい酒だと感じてもらうために考案された。

ツアーでは注いだばかりの泡盛の香りを試す。テイスティングなどを体験する。

しばらく空気にふれることで、香りを比べてみると泡盛が持つ甘さや芳醇さは、さらに強くなる。

大城社長はこの変化を「香りが開く」と表現する。

忠孝酒造 大城勤社長:
香りがどうなったか?キャラメルの香りがします。〝香りが開く〟というのが実感できる。
続いてこれがバニラ。未知との遭遇でしょ。

大城社長は、「泡盛の文化というもの、価値観を伝えるというのがツアーの役割」だと力を込める。

年々出荷量が減少し「泡盛離れ」が叫ばれて久しいなか、伝統をつなぐために泡盛にあらゆる価値を加え、その魅力を最大限に引き出していくことも酒造所の役目だと大城社長は考えている。

忠孝酒造 大城勤社長:
泡盛というのは沖縄の誇りであるということを我々はずっとずっと言い続けないといけないし、あるいは誇りであると言わせるような作品づくり、泡盛造りを我々はやっていく。大きな課題と挑戦があると思います

古酒を再蒸留 挑戦的な試み

泡盛の可能性を広げる挑戦を始めた酒類の卸売り業を展開する南島酒販。

商品部の古謝雄基さんは、「挑戦的な泡盛を造るため、製造者がどういった思いで酒造りをやっているのか踏まえながら、世界的に評価されるような酒造りをしていく」と意気込む。

その名は「shimmerプロジェクト」。

県内の酒造所と二人三脚で今までにない製法や原料を使い、付加価値とブランド力の高い泡盛造りに取り組んでいる。

2022年11月から、これまでに県内12の酒造所とともに、あわせて21種類の新たな泡盛を生み出してきた。

shimmerプロジェクトで誕生した泡盛

プロジェクトでは、去年、西原町の石川酒造場で貯蔵していた26年ものの古酒を再び蒸留する県内初の試みに挑んだ。

古酒を蒸留にかけた新たな試み

古謝雄基さんは、「古酒をもう1回蒸留かけるのは泡盛メーカーの中でも前代未聞」と振り返る。

古酒といっても様々で、味のバランスに難点のあったものをどう活用していくかは石川酒造場が抱える課題で、プロジェクトにより再蒸留した古酒は300リットル。アルコール度数や味、香りの異なる15種類に分解した後、ブレンドし直した。

再蒸留した古酒を15種類に分類

石川酒造場製造部マスターブレンダーの石川由美子部長は、「1つのお酒を15に分けてそれをブレンドすることで、2つの全く違う資質のお酒ができたということに驚いた」と振り返る。

泡盛鑑評会で初代ベストブレンダーに選ばれた石川由美子さんの技能が存分に発揮されるなど、酒造所の強みを活かすのがshimmerプロジェクトの醍醐味だ。

完成した「#11甕仕込」はアジア最大級の品評会、「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション」で最高金賞に輝くなど、高い評価を得た。

「#11甕仕込」は最高近商に輝く

さらに、池原酒造の「#2白百合」も同じく最高金賞を受賞したほか、サトウキビから採取した新たな酵母で製造した恩納酒造所の「#19萬座原酒」が最高位であるベスト・オブ・ザ・ベストの称号を獲得した。

ベスト・オブ・ベストに輝いた「#19萬座原酒」

恩納酒造所 佐渡山誠さん:
私たちみたいな小さな酒屋が新しいことにチャレンジするというのはなかなかハードルが高かったりリスクがあるが、shimmerプロジェクトで動きやすいような体制で出来たことが一番大きい

南島酒販は市場における泡盛の立ち位置を冷静に分析しながら、今後も泡盛の強みを最大限に活かしたブランド戦略を描いている。

南島酒販商品部 古謝雄基さん:
沖縄の泡盛が日本国内で焼酎と小競り合いをするのではなく、海外でも一つのハードリカーとして認められる方向性で僕はできればと考えています

忠孝酒造 大城勤社長:
島のスピリッツから世界のスピリッツへ、島の酒から世界の酒へ、島の誇りから世界の誇り、泡盛を育てていきます

無形文化遺産への登録を弾みに世界にも泡盛の名を轟かせたいと価値を高め、可能性を拓くために情熱を注ぐ人々の姿がある。

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