広島県呉市・下蒲刈(しもかまがり)島で、地元経営者らでつくる合同会社「EpoK(エポック)」がバナメイエビの陸上養殖に取り組んでいる。過疎化が進む地域の活性化を目的に2019年にスタート。「くれぇ海老(えび)」としてブランド化し、新型コロナ禍などを乗り越え、23年のG7広島サミットでは昼食会の食材として提供された。「呉の特産品として、さらに知名度を上げていきたい」と意気込む。
ブクブクブクブク……。エアポンプの音がするビニールハウスのような養殖施設の中に入ると、記者のめがねがあっという間に曇った。バナメイエビは中南米原産。「水温を15度以上に保つ必要があり、真冬にはボイラーをたいています」。エポックの渡辺雅允(まさのぶ)社長(44)が教えてくれた。
約2600平方メートルの施設内には60トン水槽が20基設置され、出荷間近のエビは15センチ以上に育って元気に泳いでいる。
エポックは、海運会社を経営する渡辺社長ら呉の若手経営者の勉強会から始まった。鉄工、配管、電気機材卸など異業種の経営者が集まり、15年ごろから「海にまつわることで呉を盛り上げられないか」と話し合っていたという。
カキ殻処理や海藻養殖など複数出たアイデアの中から、新規参入のしやすさや採算見通しなどを考え、バナメイエビの陸上養殖が残った。当初から事業化を見据えており、勉強会に参加した7人が資金を出し合って合同会社を設立。メンバーの取引先を介して韓国・済州島のエビ養殖業者にたどり着き、指導を受けながら事業を始めた。
19年夏、約60万匹の稚エビをタイから輸入して水槽に入れた。2~3カ月で10センチ以上に育つ計画だったが、半年以上かかった。専門家にみてもらうと、「エビの肝臓が弱っている。水質が原因だろう」と言われた。
海水をろ過して再使用する「完全閉鎖式」という方式を取っていたのを見直し、定期的に海水を入れ替えるやり方に変更。エビの成長が格段に早くなった。「原因は不明だが、瀬戸内海と済州島の海水の違いだろう」と渡辺社長は振り返る。
新型コロナの感染拡大では宿泊施設向けの出荷が激減した。そのさなかの21年には、急性肝膵臓壊死(かんすいぞうえし)症(AHPND)が発生し、約16万匹が死ぬ被害にも遭った。
苦労は多いが「日本の食料自給率の低さを考えると、第1次産業はこれからさらに重要になる。くれぇ海老は甘みとしっかりした歯ごたえが特徴で、刺し身で食べることもできる」と前向きだ。
積極的なPR活動が奏功し、広島サミットの昼食会でアクアパッツァの食材として提供することもできた。県外からの視察や、食品会社とのコラボ企画なども増えて、23年は約10万匹を出荷した。
19年ごろはバナメイエビを陸上で養殖する国内業者はまだ少なかったが、今は徐々に増加傾向にある。ライバルが増えるという面もあるが、稚エビの国内調達が可能になるなどメリットも大きい。
エポックは急速冷凍装置を導入し、電話やインターネットで注文を受け、鮮度を損なわずに全国発送することができる。価格は1パック(340グラム)2000円。養殖場では生きたエビを1匹200円で直売もする。渡辺社長は「くれぇ海老を目当てに、呉を訪ねてくれる人が増えればうれしい」と呼び掛ける。問い合わせは0823・65・2337。【中村清雅】
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