日本を代表する湧き水や河川などを選ぶ「名水百選」令和版の選定作業が難航している。環境省内で選定基準作りなどに時間がかかり、当初目指していた2024年度中の決定を見送ることになった。観光の呼び水としても期待される「名水」選びの行方は不透明だ。
昭和、平成に計200カ所選定
環境庁(当時)は1985年、水環境を守ることへの関心を高めてもらおうと、「名水百選」(昭和版)を決定。龍泉洞地底湖の水(岩手県)や四万十川(高知県)など、水質の優れた100カ所が選ばれた。
08年には環境省が「平成の名水百選」(平成版)として、鳥川ホタルの里湧水群(愛知県)など新たに100カ所を選び、「名水」は現在、計200カ所ある。飲用に適することを保証するものではないが、選定をきっかけにミネラルウオーターとして商品化された例も珍しくない。
環境省は22年、令和版の名水百選を選定することを決め、24年度中の公表を目指してきた。
令和版は対象拡大、災害に備えた湧き水も
昭和、平成版の選定では水質や水量、景観の他、地域住民らが保全活動をしていることなどが重視された。令和版は「きれいな水」ではなくても希少な生き物が生息している環境など、「名水」の間口を広げる予定だ。地域の歴史・文化との関わりが深い湧き水や河川、河川流域が一体となって環境を保全している地域なども対象にしようとしている。
1月の能登半島地震では、断水が続いた石川県珠洲市で湧き水を生活用水に活用した。全国的には都市化や水道整備などに伴い枯渇したり水質が悪化したりしている地域も多い中、災害時に使えるよう、住民が大切にしてきた湧き水も対象とする可能性があるという。
間口広げすぎ?選定基準決められず
ところが、いまだに具体的な基準や選考方法は決まっていない。間口を広げると優れた水環境かどうかを単純比較することが難しく、評価項目の検討に時間がかかっているからだ。募集開始や決定時期のめども立っていないという。
「名水百選」という名称を使うかどうかも未定だ。この名称は広く知られブランド力があるが、「名水=おいしい水」という印象も強く、「想定している令和版と従来の『名水』のイメージがやや異なり、使い続けるかどうかも含めて検討中」(環境省の担当者)としている。
環境省には応募意欲のある地域から数カ月に1度ほど問い合わせが寄せられるなど、「名水」への関心は途絶えていないという。令和版の選定に向け、環境省の担当者は「これまでとは違う観点でブランディングをして、令和にふさわしい良好な水環境を掘り起こしていきたい」としている。【山口智】
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