近畿大生物理工学部(和歌山県紀の川市)と高野山大文学部(高野町)の学生各5人が、紀北地域の寺院での野生動物による被害を調査した「獣害マップ」(A4判)を作製した。獣害への理解を広げようと、調査結果の特徴を踏まえたポスターも作り、対象地域の9市町の市役所や町役場に配布。学生たちは「獣害対策に役立ててほしい」と話している。【藤原弘】
文化財の獣害に関心がある近畿大生物理工学部の長谷川由美准教授(言語学)によると、農作物に比べて文化財への獣害を研究した例は少ないといい、学生に調査を呼び掛けたのがきっかけという。紹介を受けた高野山大の森本一彦教授(社会学)とも連携し、昨年8月に調査がスタートした。
高野山(高野町)の約50カ寺を含む和歌山、海南両市から橋本市にかけての計157カ寺に郵送や手渡しでアンケートを配布し、117カ寺から有効回答があった。このうち、獣害を受けたことがあると答えたのは101カ寺、被害を受けたことはないが15カ寺、気にしたことがないが1カ寺だった。
被害の種類については、「植物などを食べられる」が40カ寺で最も多く、次いで「地面を荒らされる」が19カ寺で続いた。動物の種類は、シカが40カ寺で最多で、ネコ37カ寺、アナグマ31カ寺、アライグマ29カ寺の順だった。高野山ではシカに庭の植物を食べられる被害が多く、他の地域ではアライグマが建物を傷つけるなどの被害が目立ったという。
マップでは、被害があった場所を分かりやすく図示。近畿大の堀蒼唯さん(21)によると、地域によって被害を及ぼす特徴的な動物が分かるように工夫したという。ポスターでは、高野山とそれ以外の地域での被害の違いを分かりやすく対比した。
高野山以外の寺院を訪問した同大の黒田幸汰さん(20)は「本堂内部の柱にアライグマが登った足跡が付いていた。軒下にムササビが巣を作った建物もあった」と振り返る。高野山を訪れた清水春奈さん(20)は「高野山では自然の中にお寺がたくさんあり、獣害が多いのもうなずけた」という。岩崎千鶴さん(20)は「お寺同士で獣害の情報交換をし、対策ができていったら」と期待。渡辺晴菜さん(20)は自分たちにできる行動として「獣害についてチラシやSNSで発信できるのでは」と話した。
長谷川准教授は「行政に文化財への獣害の実態を知ってもらえたら」とし、森本教授は「行政や理系の専門家も参加し、獣害対策の政策を立案する動きにつながれば」と述べた。
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