面接だけで応募者の適性を見極めるのは非常に難しいですが、どんな話を聞き出すべきか、どんな点に着目すべきか、ポイントをお伝えします(写真:EKAKI/PIXTA)これまで1万人超の採用・昇降格面接、管理職・階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席し、アドバイスを行ってきた人事コンサルタント・西尾太氏による連載「社員成長の決め手は、人事が9割」。エンターテインメントコンテンツのポータルサイト「アルファポリス」とのコラボによりお届けする。

リーダーシップとマネジメントは似て異なる

「採用面接で、リーダーシップのある人材、マネジメント力のある人材を見分けるポイントは何ですか?」そんな質問をいただくことがあります。面接だけで応募者の適性を見極めるのは非常に難しいですが、どんな話を聞き出すべきか、どんな点に着目すべきか、いくつかのポイントをお伝えしたいと思います。

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まず知っておきたいのは、リーダーシップとマネジメントは似て異なる概念ということ。リーダーシップは「動きをつくるもの」、マネジメントは「無駄を減らすもの」ですから、企業ステージによって求めるべき人材が異なります。

企業の創業期や変革期は、新しいものを生み出さなくてはいけません。変わらなくてはいけません。そのため、リーダーシップが重要になります。

リーダーシップに長けているのは、一言でいうと「非常識な人」。世間の常識や過去の慣習にとらわれず、自由にいろいろな発想ができる人でなければ、本当に新しいものをつくったり、会社を変えることはできません。

一方、新しい事業が立ち上がり、ビジネスが軌道に乗り始める安定期になると、マネジメントが重要になってきます。マネジメントに長けているのは、仕組みをつくり、きっちり回していく人。いわゆる「しっかりした人」です。

新しい事業を生み出したり、現状を変えていくためには、トライアンドエラーを繰り返していくことになるので「無駄」はつきもの。無駄を生み出すリーダーシップと無駄を減らすマネジメントは、相反する能力といえます。

リーダーシップとマネジメント、両方とも得意な人はそう多くないでしょう。ほとんどの人はどちらかが苦手だったりするので、「いま自社に必要なのはどちらなのか?」という認識を持って採用面接にのぞむことが重要になります。

マネジメント人材の見分け方

では、どのようにして応募者の適性を見分けたらいいのでしょうか。マネジメントにも「タスクマネジメント」と「ヒューマンマネジメント」の2つのベクトルがあり、それぞれ求められる能力が異なります。

タスクマネジメントとは、目標達成に向け、計画を立案し、進捗を管理し、計数も管理しながら、成果を上げていくこと。チームのPDCAを回し、段取りよくタスクを実行していくことが求められます。

一方、ヒューマンマネジメントとは、コミュニケーション力に加え、メンバー1人ひとりのキャリアビジョンやライフビジョンを把握し、適切なアドバイスをして、人を育てることです。

タスクマネジメントに長けているのは、いわゆる「仕事ができる人」。そのため、「できない人」の気持ちがわからず、人に教えたり、人を育てたりするヒューマンマネジメントが苦手な傾向があります。

一方、ヒューマンマネジメントに長けているのは、「人の気持ちがわかる人」。傾聴力があり、メンバーから信頼されますが、その反面、情に流されてしまい、タスクマネジメントが苦手だったり、疎かになったりする傾向があります。

タスクマネジメントとヒューマンマネジメント、どちらもできる人はいますが、基本的にはどちらかに偏っていると考えたほうがいいでしょう。採用面接では次のような質問をして、どちらのタイプなのかを見分けていきます。

■タスクマネジメントに関する質問
「これまでのチーム目標を達成したときの経験を聞かせてください」
「計画を立てるときに気をつけたのは、どんなところですか?」
「計画通りに行かないときは、どのように対応しますか?」
「目標を達成しなかったことはありますか?」
「目標を達成できなかった理由は何だったのでしょうか?」■ヒューマンマネジメントに関する質問
「あなたが育てた人は、何人くらいいますか?」
「その人たちは、今は何をしていますか?」
「人を育てるのに失敗したことはありますか?」
「失敗したのは何がいけなかったと思います?」
「人を育てるとき、どんなところに苦労しますか?」

適性を見極めるポイントは、上記のような質問に対して「具体的な経験」を話せるかどうか。自身が経験したことを、その情景がありありと思い浮かぶようなエピソードとして話せる人は、タスクマネジメント人材、あるいはヒューマンマネジメント人材として期待できるでしょう。

逆に、自身の経験をうまく話すことができない人や、抽象的な答えしか返ってこない人は、マネジメントに適していない、と判断していいでしょう。

タスクマネジメントもヒューマンマネジメントも「人に伝える」ことが重要な仕事なので、一定のコミュニケーションスキルは不可欠です。自身が経験したことを簡潔にまとめ、3〜5分くらいでわかりやすく話すことができるか、それが興味深い話として聞けるか、といったポイントにも注目してみてください。

また、「人を育てるのは好きですか?」と聞かれて「好きです」と答える人ほど、実はヒューマンマネジメントが得意ではないケースが多く見られます。人はなかなか育ちません。実際に部下やメンバーを育てた経験があり、その難しさを実感している人は、簡単に「好き」とは言えないはずです。

「とても得意とは言えません。何とかしたいと思っているんですけど、なかなかうまくいかないですね」などと言いながらも、人材育成の経験についてイキイキと話せる人のほうがヒューマンマネジメント人材として期待できます。

タスクマネジメントにしてもヒューマンマネジメントにしても、自身の得意・不得意を客観的に見極めているかどうか。これも大事なポイントです。

リーダーシップ人材の見抜き方

リーダーシップに関しても、基本的にはマネジメントと同じく「具体的な経験」を掘り下げて聞いていくのがいいでしょう。新規事業や業務の大改革など、以下の例のように実際にやったことについて質問してみてください。

■リーダーシップに関する質問
「あなたが新しく始めてうまくいったことや大きく変えたことは何ですか?」
「うまくいかなかったことは何ですか?」
「新しいことや変革をするときに、どうやって人を巻き込みましたか?」
「周囲の人たちを同じ方向に向けるには何が必要ですか?」
「当社で新しい事業を起こすとしたら、どんなことが考えられますか?」
「あなたの夢は何ですか?」

ぜひとも聞いておきたいのは、上記の質問にあるような「周りを巻き込む力」の有無です。新規事業も業務の大改革も1人ではできません。部下やメンバーに仕事の意味や目的を伝え、モチベーションを高め、チームを活性化できる「動機づけ」のスキルがリーダーには不可欠です。その経験やノウハウを聞くことによって、リーダーシップ人材としての適性が判断しやすくなります。

また、自社の事業について伝え、新しい事業を起こすとしたらどんなことが考えられるのか、3つくらいアイデアを出してもらうといいでしょう。「〇〇もあるし、△△もあるし、□□というのも考えられますね」と、どんどん新しいアイデアが出てくるような人なら、リーダーシップ人材として期待が持てます。

そして、組織のリーダーは「夢」を語れることも重要です。利益や売上などの数字だけが目標では、部下やメンバーはなかなか付いてきません。リーダーが語る夢に共感し、同じ夢を抱けるどうか。これが組織のパフォーマンスを大きく左右します。自社の仕事を通じて叶えたい夢についても聞いてみてください。

採用すべきか悩む人材は、社長の判断に委ねる

以上が「リーダーシップのある人材」と「マネジメント力のある人材」を見分ける基本的な方法ですが、リーダーシップ人材に関しては、これだけで見極めるのは難しいかもしれません。

というのも、リーダーシップ人材は「非常識な人」に多く見られるタイプです。非常に癖が強く、個性的な言動をして、服装も変わっていたりします。一方、採用担当者は「常識人」であることが多いため、いわゆる「変わり者」については理解しにくく、どのように判断したらいいのか戸惑ってしまうのです。

実は常識にとらわれない超優秀な人材なのか、ただ単に常識に欠けたダメな人なのか…。この違いを見抜くのは、非常に困難です。たとえ超優秀な人材だったとしても、入社後に軋轢を起こすことも想定しておかなくてはなりません。

では、どうしたらいいのでしょうか? 採用すべきどうか迷ってしまう個性的な応募者に関しては、自分で判断せず、社長に会ってもらいましょう。経営者は、そもそもリーダーシップ人材だったりします。「非常識な人」を見抜けるのは、同じ「非常識な人」だけかもしれません。社長の判断に委ねるのが最善策です。

私は前職で採用担当をしていたとき、新卒を20人採るとしたら4人ぐらいは社長に相談して「非常識な人」を採用するよう心がけていました。成功率は、50%くらい。やはりリスクは高いので、そういう人を採用しようと思ったら、「こいつと心中してもいいや」と思えるぐらいの覚悟が必要になります。

しかし異端をすべて排除して、出る杭を抜いていたら、画期的な事業を生み出したり、世の中を変えることなんてできません。「自分には見抜けない」と思ったら「ごめんなさい、どっちに転ぶかわかりません」と言って社長に会ってもらって、採るかどうかの決断をしてもらいましょう。

私が採用したリーダーシップ人材も、半分くらいはやっぱり凄い人たちでした。その後、社長や役員になって活躍しています。独立して起業するケースも多いですが、業務委託や副業という形で関わってもらうこともできます。

今はもう「定年まで正社員として働いてもらう」という考え方ではなく、「○年いてもらえばいいや」くらいに思って、そういう凄い人たちと「ご縁をつくっていく」という発想でもいいのではないでしょうか。

優秀な人材であればあるほど辞める確率は高くなりますが、他社では通用しない辞めなさそうな人材を採るのはそれ以上のリスクです。安定期における「リーダーシップ:マネジメント比率」は、上級マネージャークラスだと「2:8」とされます。2割ぐらいは思い切った賭けをしてみることをおすすめします。

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