白と青に彩られた、明るく心地よい海中風景です。でもシュールさを感じてしまうのは、何もない砂地なのに唯一存在する不思議な物体のせい。鳥の羽根なのでしょうか。
もちろん、何もない白い砂地にアクセントを加えようとして、私が突き刺したわけではありません。砂の中から、にょきにょきと「生えて」きたのです。
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ある意味で「鳥の羽根」というのは間違っていません。英語ではこの物体を「Sea Pen(海のペン)」と呼んでいます。かつて西洋では、羽根の先にインクをつけて文字をつづっていました。その羽根ペンにそっくり。
和名だと、ウミエラの一種「ヤナギウミエラ」です。サカナのエラのようだからといいますが、ますます正体が分かりません。
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タネを明かすと、ウミエラ類はサンゴの仲間です。刺胞動物なのでイソギンチャクやクラゲにも近い。
「サンゴには見えない」という方も多いでしょう。でも、葉状体と呼ばれる羽のように広がった部分には、プランクトンを捕らえる触手を持つポリプ(個虫)がたくさん並んでいます。ウミエラは一体の生物に見えるものの、複数のポリプが集まった群体(集合体)です。これは、ほとんどのサンゴに共通する体の構造です。
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各ポリプの触手数などにより、サンゴは「六放サンゴ」と「八放サンゴ」に分けられます。六放サンゴは、骨格を持つイシサンゴでハードコーラル(硬質サンゴ)と呼ばれます。八放サンゴは、硬い骨格のないソフトコーラル(軟質サンゴ)。ウミエラ類のポリプは、触手を8本持ちます。深海の「宝石サンゴ」や、この連載にも脇役として何度か登場した「ヤギ」類にも共通する特徴です。
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ウミエラ類は、暖かいサンゴ礁から寒冷な極地まで世界中の海で暮らしています。200種以上が報告されていて、国内だけでも68種が確認されています。
昼間は、砂地に潜っています。夜間に姿を現してポリプを広げ、プランクトンなどを捕らえ食べます。昼間見られるのは、日差しがなく潮の流れが速いという条件がそろったとき。そのため、ヒトが目にすることはほとんどなく、知られてもいないのです。
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なのに、これほど透明度が高くて明るく、流れも穏やかな場所に現れたため、びっくりしてしまいました。「昼間の幽霊」を見たようなものです。以前に私が見たのは、プランクトンが多いため透明度が低くて薄暗く、おどろおどろしい雰囲気の海底でした。
そういえば「柳に幽霊」なんて言葉もありますね。ここでのヤナギウミエラを昼間の幽霊に例えるのも、あながち間違ってなさそうです。(沖縄県名護市で撮影)【三村政司】
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