世界自然遺産・知床で進む携帯電話基地局の整備事業について、日本自然保護協会(亀山章理事長)は7日、国の関係省庁などに対し、事業への疑問や慎重な検討を求める意見書を提出した。特に「知床の核心部」ともいわれる知床岬での太陽光パネル設備の建設は「看過されるものではない」としている。
意見書は事業を主導する総務省や環境省、国土交通省の各大臣、林野庁長官、携帯電話事業者4社(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル)に提出した。
知床半島では2年前の小型旅客船「KAZUⅠ(カズワン)」の沈没事故後、総務省主導で携帯電話のエリア拡大を進めるプロジェクトが立ち上がり、基地局4局を整備する計画が進行。知床五湖地区など2基地局はすでに運用が始まり、今年は先端部の知床岬と岬東側のニカリウスの2地区で建設が進む予定だ。
特に大がかりな工事を伴うのが知床岬地区で、灯台の壁面にアンテナ、そこから約2キロ離れた無線設備まで地面を掘り起こして電線・光ケーブルを埋設。この間の約7千平方メートルに電源となる太陽光パネル群(264枚)と蓄電池が配置される。資材の運搬には専用の運搬車とモノレールを使う計画だ。
意見書では「知床半島の中心部から岬にかけては国立公園の特別保護地区で、本来開発などから厳重に守られるべきエリア」と指摘。国交省管轄の旅客船の安全管理とは切り離したうえで、「携帯電話の通信強化の必要性には疑問がある」とした。
その上で、「特別保護地区のような原生的な自然の中では利用者の利便性よりも、不便さを伴う非日常の自然体験こそが優先される」とし、太陽光パネル設備については「改変規模として看過されるものではない」と世界自然遺産登録時に評価を行った(世界遺産委員会の諮問機関の)国際自然保護連合(IUCN)に意見を聞くなど慎重な検討を求めた。
特に環境省に対しては、今後、全国の国立公園・国定公園で同様な事態が起きないよう、「携帯電話の基地局やそれに伴う太陽光パネルの設置が容易に進まぬよう保護地域に関する対応方針を立てるべきだ」と強調した。
今回の基地局整備について、環境省は世界遺産委員会に通知が必要な「遺産地域の顕著な普遍的価値に影響する可能性のある大規模な新規工事」には該当しないと認識している、としている。(奈良山雅俊)
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