「鯨肉を食べた経験がありますか」――。香川大学経済学部(高松市)で8日、捕鯨と鯨食を考える岡田徹太郎教授の授業があった。岡田教授は経済政策の面から捕鯨問題に関心を持っており、鯨食文化を多角的に描いたドキュメンタリー映画「鯨のレストラン」(八木景子監督)が高松市で10日から上映されるのに合わせて特別授業が行われた。
「鯨のレストラン」は鯨料理店主の日常を軸に、専門家らへの取材を基に反捕鯨の主張を検証し、保護が行き過ぎると海洋生態系のバランスの崩壊につながりかねないと問題提起する内容。八木監督の2作目で、2023年に完成した。
捕鯨映画では、10年に米アカデミー賞を受賞し、反捕鯨の国際機運を一気に高めた「THE COVE(ザ・コーヴ)」が有名だ。八木監督は15年、この流れに反論する映画「ビハインド・ザ・コーヴ」を製作し、欧米など反捕鯨国でも上映された。鯨を余すところなく活用してきた日本の文化も伝え、観客から「初めて日本側の意見を聞けた」との感想も寄せられた。
しかし日本では劇場側が反捕鯨家の抗議を懸念し、上映先は八木監督自身が見つけていくしかなかった。17年にやっと動画配信大手で配信され、今も「アマゾンプライム」などで見ることができる。
「鯨のレストラン」も八木監督が上映先を探して孤軍奮闘していたところ、知人を介して岡田教授と知り合った。岡田教授は「多くの人に見てほしい」と考え、高松市のミニシアター「ソレイユ」と交渉し、中四国での初上映が決まった。
授業は2年生約260人が受講した。鯨肉を「食べた経験がある」「ない」と回答した学生はいずれも45%と分かれ、「記憶にない」が10%だった。岡田教授は「50代の私の世代は給食で出てきた。もっと上の世代は日常的に食べていた。世代の違いは、今後の捕鯨を考える上で重要」と話した。
国際社会では1948年に国際捕鯨委員会(IWC)が設立され、日本は51年に加盟した。IWCは82年、生物資源としての枯渇が懸念されるとして商業捕鯨の一時停止を採択。日本は調査捕鯨を始め、88年には商業捕鯨を中断した。
こうした経緯を踏まえ、岡田教授は2019年に日本がIWCを脱退して商業捕鯨を再開したことなどを説明。捕鯨を巡る国際社会と日本との摩擦の背景として、鯨油を採取して鯨肉を捨ててきた欧米と、食肉が大きな目的だった日本の違いを挙げた。授業の最後には、学生から「日本の立場をはっきりと国際社会に発信するべきだ」「他の肉があるのに、わざわざ鯨を食べる必要はないのでは」などの意見が上がった。
上映は「ソレイユ」で16日まで。午後1時40分(11日は午後1時45分)から。11日は上映後に八木監督と岡田教授によるトークがある。【佐々木雅彦】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。