飼育室に設置されている台に飛び乗るツシマヤマネコの「かなた」=長崎県対馬市の対馬野生生物保護センターで2024年4月22日午前9時13分、吉田航太撮影
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 「とらやま」。日本で唯一、長崎の離島・対馬にだけ生息するツシマヤマネコは、地元で古くからそう呼ばれてきた。約10万年前に当時陸続きだった大陸から渡ってきたベンガルヤマネコの亜種とされる。1971年に国の天然記念物に指定され、絶滅危惧種として保護されている。

 成獣の体重は3~5キロで体長は50~60センチ。額にある白黒の縦じまや、耳の後ろにある白い斑点(虎耳状斑(こじじょうはん))、太い尾が特徴だ。環境省によると、生息数は島内に100匹ほど。天然記念物になった後も個体数が減少したため、国は94年、種の保存法により国内希少野生動植物種に指定。今年で指定から30年を迎えた。

 対馬市では、人口約2万7000人(2024年4月)に対し、シカが約4万5000頭生息しており、シカによる農作物などへの被害が深刻だ。そのためシカなどを捕獲するためにわなを設置しているが、ツシマヤマネコが誤ってかかる「錯誤捕獲」が後を絶たない。また、交通事故に巻き込まれることが多く、事故で死んだ個体は92年9月から今月9日までで累計134匹に上る。

 97年から稼働する対馬野生生物保護センターでは、環境省が中心となり、事故や錯誤捕獲に遭った個体の保護収容や治療を24時間体制で続けている。昨年は、錯誤捕獲による保護が10匹あり、うち1匹が死んだ。また、3匹が事故に遭い、うち2匹が死んだ。

 首席自然保護官の柴原崇さん(45)は「島民の皆さんと連携して、島にいる一匹一匹を大事にしていきたい」と話し、事故や錯誤捕獲に遭遇した際の早急な通報を求めている。

 この30年、シカの食害により山林には下草がなくなるなど、ヤマネコがすみかや餌場としていた茂みが減少した。93年から保護活動を続けているNPO法人「ツシマヤマネコを守る会」は、生息域の島北西部佐護地区のかつて田畑が広がっていた山林の斜面を再び開墾。ツシマヤマネコの餌となる小動物や昆虫が捕れるようにソバ畑などを整備してきた。

 守る会の会長、山村辰美さん(79)は「ヤマネコが安心して育つ環境を整えてあげたい。絶滅してからでは遅い」と話す。

 全国9カ所の動物園での飼育繁殖も進んでいる。15年には、動物園生まれの個体の野生復帰を目指す訓練施設「ツシマヤマネコ野生順化ステーション」が整備された。将来的な野生復帰実現を目指し、保護個体の訓練が行われるなど、準備が進められている。

 人の営みのそばで生活してきたツシマヤマネコが、この島にすみ続けられるように、ひたむきな活動が続けられている。【吉田航太】

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