16時間にわたる断食では、さまざまな誘惑の魔の手が伸びてくる(写真:momo/PIXTA)「いつまで続ければいいの?」「残りの8時間は本当に何を食べてもいいの?」1日のうち16時間は何も食べない、あとは自由に飲み食いしていい、というとてもシンプルな健康法である「16時間断食」ですが、いざ実践する際にはどんな点に注意しなくてはならないのでしょうか。また、成功させる秘訣はあるのでしょうか?生活習慣病の専門医で「16時間断食」の火付け役でもある、青木厚氏の著書『新版「空腹」こそ最強のクスリ』より一部抜粋・再構成して解説します。

がんを克服するためにたどりついた食事法

私は内分泌代謝や糖尿病を専門とする医師として、風邪をひいた人から生活習慣病の人まで、多くの患者さんと向き合ってきました。そして、患者さんたちに「16時間断食」を勧め、効果を実感してもらっています。

そもそも、私がこの食事法を知って実践したのは40歳のとき。自分自身が舌がんになったのがきっかけです。しかも、当時の私はお腹にたっぷり内臓脂肪を蓄えたメタボリック体型でした。

そこで私は、がんの再発防止とメタボ対策としてよい方法はないかと世界中の医学論文にあたりました。懸命に探してたどりついたのが、この「16時間断食」だったのです。

「16時間断食」は、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した「オートファジー」研究をもとに生み出された食事法です。

オートファジーとは「古くなった細胞が新しく生まれ変わる」体の仕組みのことです。オートファジーが活性化すると、加齢や食生活によるダメージがリセットされ、体が内側から若々しく蘇ります。

週1回でも実践すれば、確実に効果はある

オートファジーが活性化するのは、最後にものを食べてから16時間ほどが経過したとき。私が「16時間断食」をおすすめするのは、オートファジーの効果を最大限に実感してほしいからです。

Q.「16時間断食」は毎日やらないと効果が出ませんか?

毎日できればベストではあります。ですが、必死になって毎日実践する必要はない、と私は患者さんに言っています。

まずは週1回、できる範囲で実践してみてはどうでしょう。空腹の心地よさに慣れてもっとできそうなら日数を増やす。そんな感じで続けることを優先してください。

オートファジーによる細胞刷新の効果を得るためだけなら、週1回でも、月1回でも、効果は得られます。

Q.16時間はキツイな、と感じてしまいます

まずは12時間の空腹の時間を作るのを目標にしてみてください。それなら8時間の睡眠に4時間プラスするだけです。そこからだんだんと16時間に延長していけば大丈夫です。

「今日は朝から何も食べてない。そんなにお腹も空いてない。もう少し、空腹を継続してみるか……」。そんな感じで、少しずつ16時間に近づけるといいですよ。

Q.力仕事なので、朝ごはんを食べないと体がもちません

休みの日だけ空腹の時間を作るのでも構いません。仕事の日でもできそうなら、朝と昼はしっかり食事をとり、夕食を抜いて16時間の空腹を作るのもおすすめです。

Q.週に1~2回、友達と飲みに行くので、実行できません!

そういう日は休んで構いません。友人と食事を楽しんだり、好きな料理を思いっきり味わったりする日を作るのも、大切な心の栄養です。

Q.16時間以上、断食をしても構いませんか?

空腹の時間が長ければ長いほど、脂肪の分解は進み、オートファジーもより活性化します。「16時間断食」に慣れて、もう少し頑張れそうであれば、昼食や夕食をあと1回我慢して、「24時間の空腹」にチャレンジしてみてください。実際、私も週に1回は「24時間の空腹」を実践しています。

ただし、「空腹が意外と楽だから」といって決して24時間を超える断食は行わないでください。体への負担が大きく、個人の判断で行うのは危険です。どうしてもチャレンジしたい場合は、必ず医師の指示の下で行うようにしましょう。

Q.いつまで続けるのがいいですか?

ダイエット目的の方なら、理想の体重に達して、それを維持できるようになるまででもいいかもしれませんね。ただ、空腹の時間を作ることは、健康と若さを維持するために、これ以上にない優れた食事法です。できれば一生涯、続けていただければと思います。

何をどれだけ食べてもいいって本当?

これまで、医学的根拠の有無にかかわらず、健康や長寿、アンチエイジングのための、さまざまな食事法が紹介されてきました。

まずは、カロリー計算をして食事の量を調整する方法。そして、特定の食品をたくさん食べたり、逆に、脂肪分や糖質を制限したりと、ふだんの食事にプラスあるいはマイナスする方法です。

しかし、最新の医学エビデンスに基づき、近年、「食べものの内容を制限する」ことよりも「食べない時間を増やす」ことに、より注目が集まっています。

Q.「16時間断食」以外の8時間は何を食べてもいいのですか?

何をどれだけ食べても構いません。ですが、せっかくなので、この機会にオートファジーを活性化するオメガ3脂肪酸が含まれる食品や、腸内環境をよくする発酵食品、筋肉を強くする良質なタンパク質が含まれるものを意識して、バランスのよい食事を心がけてみるのはいかがでしょうか。

Q.おやつもいくら食べてもいいのですか?

基本的には大丈夫です。我慢のしすぎは精神的にもよくありません。ただし、ダイエット目的の方や糖質過多が気になる方は、ほどほどの量にしておくほうが無難です。

空腹に耐えられないときの「強い味方」も

Q.なぜ、ナッツは食べていいのですか?

本来、空腹の時間は一切食べないのが理想です。ですが、空腹が我慢できないときや、運動前など何かお腹に入れておきたいとき、薬を飲まなければならないときなどに、何も食べないわけにはいかないと思います。

そんなときに食べるとしたら、オートファジーを活性化するオメガ3脂肪酸が含まれているものを、という理由でナッツをおすすめしています。食べることで減退するオートファジーの働きを、オメガ3脂肪酸によって少し引き上げることができます。

空腹の16時間中に食べる場合は、200キロカロリー以下を目安にしてください。市販のナッツの小袋はたいてい200キロカロリー以下になっています。

Q.ナッツを食べると内臓が休まらないのでは?

おっしゃるとおりです。とはいえ、少量ならばそこまで影響はないと私は考えています。「16時間断食」を続けるうえで、プラスとマイナスを考えたときに、プラス面が大きければよしとする、というスタンスです。

ナッツにはオメガ3脂肪酸に加え、良質なタンパク質、食物繊維、ビタミン、ミネラル、ファイトケミカルなどがバランスよく含まれています。

『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』の研究では、「1週間に7回以上(1回当たり1オンス=約28グラム)、ナッツを食べる人は、全く食べない人と比較して、20%以上死亡率が減少する」というデータも発表されています。

Q.チーズやヨーグルトはどんな種類でも構いませんか?

空腹の16時間の間にトータルで200キロカロリー以内におさまるなら、お好きなものを選んでいただいて構いません。

Q.「16時間断食」の間、飲みものは何を飲んでも構いませんか?

ゼロカロリーなら何を飲んでも構いません。水、緑茶、紅茶、ハーブティー、コーヒーなど。炭酸系ドリンクなどもゼロカロリーならOKです。ただし、人工甘味料が使われているドリンクは、長期間にわたって摂取しないようにしてください。腸内環境を悪化させます。

Q.「16時間断食」中にお酒は飲んでもいいですか?

糖質ゼロに近いお酒なら構いません。焼酎やウオッカをベースにしたものなど。ですが、特に健康目的で断食を試みるのなら、お酒はほどほどに、と医師としては言いたいところではあります。

「16時間断食」は、軽い運動も合わせて行う

空腹の時間を作ると、一日の総摂取カロリーが減り、体重も減少します。その際、もちろん内臓脂肪が分解されるのですが、同時に、人体にとって必要な筋肉も落ちることになります。

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筋肉量が減少すると、基礎代謝量が減るため、かえって太りやすい体質になり、せっかくの断食が逆効果になってしまいます。筋肉量を維持するために、断食と並行して、日常生活のなかでできる筋肉トレーニングを行うことを強くおすすめします。

Q.運動は絶対にしたほうがいいですか?

ぜひ、おすすめします。「16時間断食」を行うと脂肪とともに筋肉も落ちてしまうので、無理のない範囲で筋トレを行い、それをカバーしていきましょう。

いつもより少し多めに歩いたり、エスカレーターやエレベーターではなく階段を使うようにしたり、と心がけるだけでも、いい運動になります。本書でも簡単にできる運動をご紹介しています。

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