水上恭男さん。右後方は飼育を担当しているハシビロコウの「じっと」=千葉市若葉区の同市動物公園で2024年4月18日午前11時2分、柳澤一男撮影

 「動物福祉の向上」という言葉を最近、よく耳にする。分かっているような気がするが、明確には理解できていない。そんな中、千葉市動物公園(同市若葉区)のホームページ上に「動物福祉」の文字を見つけた。早速、同公園に足を運び、飼育2班の水上恭男班長(57)に聞いてみた。【柳澤一男】

 ――動物福祉の向上とは、どういうことでしょうか。

 ◆動物の飼育環境下では、心と体の状態が、物理的な要素によってマイナスになったりプラスになったりします。そのマイナス部分を抑えて、プラスにしていこう、というのが動物福祉の向上です。

 ――いつごろから言われるようになったのですか。

 ◆世界動物園水族館協会(WAZA)が2015年に「動物福祉戦略」を発表し、国内では日本動物園水族館協会が先導して向上を目指してきました。日本は特に畜産業界が欧州に比べると取り組みがかなり遅いとされています。

 ――なぜ日本は遅れたのでしょうか。

 ◆日本は元々、「動物愛護」という精神が強く、法律もあります。しかし、動物愛護は基本的には人中心の考え方なんです。例えば、動物が悪いことをしたら駆除しましょうとなる。その反面、犬や猫の調子が悪いと、かわいそうだという感情が前面に出てくる。動物福祉の向上は科学的根拠に基づいて改善していきましょうという考え方で、日本ではそういった取り組みが遅かったことが要因です。

 ――科学的根拠に基づく改善とは具体的にどのようなことですか。

 ◆例えば、体重測定を定期的に実施し、エサは毎日どのくらい残っているかなどのデータや根拠を積み重ねます。その上で、太っていたり痩せていたりするのをどう改善していけば良いかという手法を考えます。

 ――動物福祉の向上の手段の一つとして、「環境エンリッチメント」という取り組みが進められているとも聞きました。

 ◆はい、生息環境に基づいて改善や向上させるという工夫です。例えば、野生下での動物はエサの探索行動が非常に多い。その環境に近づけるため、ゾウに対して草を1カ所だけで与えるのではなく、6、7カ所に分けたり、隠して与えたりします。

 ――千葉市動物公園ではどのような環境エンリッチメントに取り組んでいますか?

 ◆例えば、チーターラン。疑似餌を付けたワイヤをモーターで引き、追いかけさせる試みです。野生下では獲物を走って捕るので、そういう行動を引き出すためです。ライオンのミートキャッチャーは、ワイヤに肉をつり下げ、それに飛び掛かるようにさせる仕組みで、獲物に対する貪欲さや感情を引き出させようとしています。

水上恭男(みずかみ・やすお)さん

 堺市出身。大学卒業後、1991年から千葉市職員。約30年、同市動物公園の飼育現場で動物と向き合う。レッサーパンダ、ゾウ、ゴリラなど多くの動物を担当してきた。

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