「な、何ですと‼ 大麻駅南口のじかんが閉店!?」「残念だあー」「俺の青春のじかんが。。」――。学生街で大学生らにボリューム満点の食事を提供してきた名店「れすとらん じかん」(北海道江別市)が今月、31年の歴史に幕を下ろす。閉店を告げる張り紙が6日に掲示されると、ネット上では“悲鳴”を上げる人々が続出。26日の最終営業日前に思い出のひと皿を食べ納めようと、連日行列ができている。
一番人気は「ザンギ丼」
1993年開業。北大近くの時計店を借り受けて営業していた喫茶店「自由人舎 時館(じかん)」(札幌市北区)の姉妹店として、JR大麻駅舎内にオープンした。当時は本物の列車を改造した店のつくりでも話題に。2008年に建物の老朽化で現在の駅前店舗へ移転した。
店の一番人気は「ザンギ丼」。甘辛のタレと大ぶりの唐揚げが固定ファンをつかんで離さない。今でこそ物価高の影響でMサイズ820円だが、かつては同580円。このほか豚と野菜を炒めた「キムチ丼」や、名物のカレーを使った「ドリア」もよく出る。
全てのメニューにはS、M、J、Wの4サイズがあり、客はその日のお財布や胃袋に応じて量を選べる。おなかいっぱい食べたい人は、J(ジャンボ)か、その上を行くW(ダブル)をチョイスする。
だが、じかんはただのデカ盛り店ではない。丁寧な仕込みと料理の質で、多くの人に長く愛されてきた。とりわけ名物のカレーは、毎日ずんどう鍋で7~8時間かけてコトコトと煮る鶏ガラベースのスープを使い、半日かけて仕上げている。
本当は続けたいけれど
「続けたいのはやまやまなんですけど……」。そう眉尻を下げて寂しそうに切り出したのは、オーナーの遠藤誠さん(65)。新型コロナウイルス禍による売り上げ減と原材料費・光熱費の高騰にも、なんとか無理をして耐えてきたが、「後継者がいない」のが閉店の最大の理由という。
「30代のベテラン社員が継いでくれると思っていたんですが、コロナ禍と物価高を受けて断念したいと申し出がありました。これまで朝9時から夜12時過ぎまで休みなく働いてきた私も、膝や腕がしびれるようになってきた。新しく人を雇っても、一から教える体力と気力がもうないと判断しました」
苦渋の決断だったが、続々とやってくる往年の常連客たちから「なんで」「もったいない」「続けて」と言われる。遠藤さんとしても、飲食店を営んでいるのは「人と人のコミュニケーションが好きだから」。本当は続けたいと思っている。
学生と顔なじみになれば「しばらく来てないじゃない。もっと来てくれないと」と冗談めかしてなじり、いつもと様子が違えば「どした。今日元気ないな」と声をかけてきた。そうした少しの会話でお客さんがニコッと笑ってくれるのが、遠藤さんの励みになっていた。
「学生に優しい店だった」
高校・大学時代に部活の先輩たちと通い詰めたという、千歳市の会社員、沖田歩さん(23)は「味付けやサイズ感も良かったが、学生に優しい店だった」と振り返る。閉店約2週間前に妻と駆け込み、「店がなくなるのは嫌です。じかんは大麻のホットスポットというか、地元の味なので」といつも頼んでいた思い出の親子丼をほおばった。
現在、1日の客数は従来の100人弱から200人程度に激増し、店内の行列が外まで出ることも珍しくない。てんてこ舞いの営業だが、遠藤さんは「ここまで31年もお客さんに来ていただいていたんだと思うとうれしいですね。昔からある料理を食べていってほしいので、最終日までなるべく品切れを出さないよう頑張ります」と話している。
火曜定休。昼は午前11時~午後3時(ラストオーダー午後2時半)。夜は午後5~9時(同午後8時半)。品切れなどで早めに閉まる場合もある。【伊藤遥】
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