通常国会も残り1カ月余り、最大のテーマである「政治資金規正法」改正案は与党内で折り合いがつかなかった。自民党が単独で法案を提出する異例の展開をみせている。
この記事の写真は6枚1)自民と公明 政治資金規制法改正案で別れる主張
自民党と公明党が折り合えなかった項目は二つある。一つ目は「政治資金パーティー券購入者の公開基準」だ。自民党は現在の「20万円超」の基準を「10万円超に引き下げ」を主張、公明党は「5万円超への引き下げ」を求めていた。
二つ目は、「政策活動費の使途公開」だ。公開には合意したものの、自民党は「政党から50万円以上受け取った議員が項目別に党に報告し、党が収支報告書に記載」と“項目別の公開”を主張したのに対し、公明党は「明細書の作成」を義務付けるとし、違いが残った。
岸田総理は、5月17日の夕方、自民党が改正案を単独提出したことを受けて、「引き続き公明党とも力を合わせ野党のご意見も伺いながら」、「公明党とも力を合わせ野党の意見も伺いながら」、「公明党とも力を合わせて野党各党との協議を真摯に行って」などと、公明党や野党と協議していく姿勢を、同じ会見の中で3回繰り返して強調した。
自公連立政権について研究し、著作もある中北浩爾氏(中央大学法学部教授)は、なぜ公明党がここまで反発したのかについて以下のように分析する。
一つは政局的な話で、支持率が下がり続ける岸田総理の下では、選挙に臨みたくないという向きもあるが、そもそも公明党は政界浄化を求めるクリーンガバメントパーティというところから出てきている。公明党の議員に取材すると、5万円超の基準は「正直厳しい」という声もある。しかし、組織政党なので自民党ほどパーティー券依存は深くない。公明党は、選挙では支持者の熱心な活動が必要になるが、だからこそ逆に納得感がないと熱心には動いてくれない。この問題できちんと態度を示しておかないと、次の選挙がかなり厳しくなる。山口代表もなかなか引けないという状況なのではないか。5月13日の政府与党連絡会議では、岸田総理と公明党の山口代表の与党2人のトップの方針が食い違う瞬間もみられた。
この協議では、岸田総理が「引き続き与党間でしっかりと協力して、今国会中の政治資金規正法改正の実現に向けて全力を尽くしていただきたい」と“与党間の協力”を強調したが、山口代表は「今後は法案作成に向け野党を含めた協議を急がねばなりません」と“与野党の協議”を求めた。
久江雅彦氏(共同通信社編集委員兼論説委員)は、以下のように分析する。
山口代表はカメラの前であえて、自民党と一緒にされたくないという意思表示を示したといえる。平和と福祉、クリーンな政治を掲げる公明党としては、「消極的」な自民党案に追従せず、自分たちが政治を正していく存在であるということを示したい。また次回の選挙で、公明党は小選挙区で新人2名を含め19人の候補者が立つ予定だが、3月の党独自の全国調査では、厳しい結果が出ているという。今後の衆議院選や来年の都議選、参議院選をにらみ、世論に対し、我々は自民党とは違う、という姿を強調したいのだろう。さらに5月14日、岸田総理との昼食後、山口代表は記者団に対し「野党の意見も伺って、幅広い合意形成を目指すという努力も与党として必要だ」と発言、16日の党会合でも「衆参両院の政治改革特別委員会で活発に議論を行い国会の合意を形成したい」とするなど、連日、与党優先ではなく与野党での合意形成を繰り返し主張、自民党に釘を刺している。
末延吉正氏(元テレビ朝日政治部長、ジャーナリスト)は以下のように分析する。
次の選挙がこの秋と目される中、公明党は人気がない岸田氏の下での選挙は避けたい。秋には自民党総裁選があり、新しい総裁で解散総選挙としたい。すでに交代が見込まれている総理に、今ここで譲る理由ははないと。公明党は自分たちこそがクリーンな政治をリードしていく政党だとアピールしていかなければ、支持団体も世論もついてこない。今回の件も含め、今後は次の選挙を意識した発言、パフォーマンスが増えてくるだろう。次のページは
2)自公は「連座制」導入には合意だが… 「確認書」による議員の責任はどこまで?2)自公は「連座制」導入には合意だが… 「確認書」による議員の責任はどこまで?
裏金問題の再発防止策として導入を求める声が高かったのが、議員本人の責任を問う「連座制」の導入だ。既に5月9日に自民党と公明党の間で合意をしており、今回自民党が単独で提出した改正案にも盛り込まれている。
今回の、いわゆる「連座制」の内容は、まず会計責任者が収支報告書を作成し、その収支報告書に対し議員が確認したという「確認書」を提出するというものだ。
もし会計責任者が不記載などで処罰を受けた場合、議員も確認不十分として「公民権停止」の処分となり、議員本人への罰則が強化されるという内容だ。
しかし野党からは、「確認書で確認はしたが気づかなかった」という“言い逃れ“ができるのでは、という声が上がっている。確認書方式は実際にどこまで効果があるのか。再発防止の抑止効果について、中北浩爾氏(中央大学法学部教授)は、以下のように語る。
今回、国民が怒っている最大の焦点は、会計責任者が責任をかぶり議員本人は処罰されないということだ。だから連座制といわれるものを導入し厳罰化し、抑止効果を働かせる。これは、“政治とカネ”の問題を起こさないことにつながるのではということで、私も制度を導入することは必要と考える。しかし、今回は非常にわかりづらい。「議員が十分な確認をしないで確認書を交付したときには刑罰に課す」ということは、確認をしたら刑罰は課されないのか?とも読めてしまう。ただ、自民党関係者に取材すると、「確認をしたのに気づかなかった」という言い訳は成立しづらく、共犯に問える可能性があり、連座制的な制度として作動するという声もある。こうした判断は法律の専門家ではないとわかりづらく、そこは問題だと思う。
野党案のように「収支報告書にサインさせる」のならば、議員は直接に責任を負うわけだが、確認書というものを1枚かませることにどんな意味があるのか?抜け道ができているのではないか?という疑念がある。国会の質疑の中で、徹底した議論を重ねて疑念を解決しておく必要がある。
久江雅彦氏(共同通信社編集委員兼論説委員)は、以下のように分析する。
「適正に作成」とか「しっかり確認」という点をどういう基準でするのかを曖昧にせず、詰めていく必要がある。専門家の間では公職選挙法と同じ連座制は次元が違うし厳しいという意見もある。しかし、これだけ何十年間、いつも「秘書が」「秘書が」という言い訳が使われてきた。議員のスタッフは10人程度なのだから理由や金額をはっきりさせるのは当然だ。選挙で議員になる前は、厳しい連座制があり公明正大を求め、議員になった後、何か問題が起こると「秘書やスタッフがやった」と“断層”があるのでは、国民には理解できない。専門家の意見とは異なるが、私は、政治資金規制法にも連座制の導入が、国民にもわかりやすいと考える。末延吉正氏(元テレビ朝日政治部長、ジャーナリスト)は、議論のあり方について以下のように語った。
アメリカでは何か問題が起きた時、問題の中身よりも政治リーダーとして嘘をついていたということそのものが問題視される。日本の政治家は何かあると秘書などのせいにして逃げて責任をとろうとしない、課税の特権があるという姿が国民からは問われている。しかし、連座制の問題は、公職選挙法とは次元が違う。国民主権の法の下選出されている議員の地位は非常に重い。抜け道などができないように有識者の声をよく聞きながら、法体系の問題も含めて感情的にならず冷静にしっかり議論をするべきだろう。そのために自民党内部からもっと積極的にこの問題を解決していくという強い意志や誠意を見せていく必要がある。批判されたから渋々やっているというような政治姿勢のままでは、国民の不信はぬぐえないだろう。
<出演者>
久江雅彦 (共同通信社編集委員兼論説委員、杏林大学客員教授。永田町の情報源を駆使した取材・分析に定評)
中北浩爾(政治学者 中央大学法学部教授。専門は政治学。自民党の歴史などに精通。著書に『自民党−「一強」の実像』『自公政権とは何か』など多数)
末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。永田町に独自の情報を持つ。湾岸戦争など各国で取材し、国際問題に精通)
「BS朝日 日曜スクープ 2024年5月19日放送分より」
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