◆高校の授業がない日だったけれど
国会議事堂
発言できなかったのは北海道の高校3年角谷樹環(かどや・こだま)さん。議員らに温暖化対策を問う若者グループ「#選挙で聞きたい気候危機」が立憲民主党側から参考人の打診を受け、メンバーの角谷さんを提案した。 角谷さんは中学生時代に、国会議員も参加したオンラインイベントで気候変動への危機感を語った経験がある。環境委員会が開かれた4月26日は高校は行事で授業がなく、親も含め参加に前向きだった。国会の参考人招致には年齢制限もない。 ただ、環境委員会の複数の理事らによると、理事会に諮られる前に委員間で「高校生に法案審議の質疑の受け答えができるのか」と懸念が浮上した。 務台俊介委員長(自民)は取材に「自分も心配はしたが、立憲から正式な推薦があれば通していた」と語った。一方、野党筆頭理事の森田俊和氏(立憲民主)は「『難しい』と聞いたため、グループに人選のやり直しをお願いした」という。懸念の声が招致困難の判断に至った経緯は不明のままだ。衆院環境委員会に参考人として臨んだ阪田留菜さん(中央手前)の後ろに控える角谷樹環さん(中央奥)=4月26日(衆議院インターネット審議中継から)
最終的に同グループの大学生阪田留菜さん(22)が出席。角谷さんは後ろに控え発言できなかった。◆中高年男性への偏りの指摘も
若年層は温暖化の影響を強く受けるため、国連子どもの権利委員会は昨年8月、日本も批准する「子どもの権利条約」を気候変動分野に当てはめた指針を公表。国に対し、法律や政策の議論など「意思決定プロセスのあらゆる段階において、子どもたちの意見を定期的に聞くことができる仕組みを確保しなければならない」とした。 しかし日本では、子どもたちの意見が温暖化対策に反映されにくいのが実態だ。対策に大きく影響するエネルギー基本計画に関連する経済産業省などの15会議について、民間シンクタンク「Climate Integrate」は4月、委員構成が中高年男性に偏っているとの報告書「日本の政策決定プロセス:エネルギー基本計画の事例の検証」を公表した。 角谷さんは取材に、高校で進路相談をしつつ「気候危機を止められないなら未来のことを相談してどうなるんだろう」と感じていると語り、高校生らの意見を温暖化対策に反映する仕組みを求めた。◆もし角谷さんが参考人だったらどんなやりとりになった?
もし角谷さんが参考人として発言できていたら、どんな質疑応答になったのだろうか。環境委員会で実際にあった質問について、角谷さんの考えを取材で尋ねた。 「日本の若者はなぜ政治を語らないのか」との問いに対し、角谷さんは「小学校で民主主義や政治をほとんど学ばない学校教育に一つの責任があると感じている。小学校の段階から取り入れていれば、絶対に意見を言うはずだと思う」と答えた。 食肉よりも温室効果ガスの排出が少ないとされる大豆ミートについては「肉牛を育てている家の友達もいる」としたうえで「肉を全部、大豆ミートにするなら、肉牛を育てる人とかの生活を考えた公正な移行をすべきだと思う」と語った。 再生可能エネルギーへの期待や、若者が地球温暖化対策の政策決定に参画する意義も説明した。◆子どもの権利委の委員に聞く 考えるポイントは?
国連子どもの権利委員会の委員を務める大谷美紀子弁護士は、子どもの意見を聞くときに懸念の声が出ることは「よくある」とし、「大人側の経験のなさ、子どもの能力や知識への認識不足もあるのだろう」とみている。 「今回の件を今後の議論につなげてほしい」と語る大谷弁護士に、議論のポイントを聞いた。大谷美紀子弁護士(2022年撮影)
記者 高校生の参考人招致に心配の声が上がり、結果として実現しなかったことを、どう受け止めますか。 大谷さん 実現しなかったことは残念です。ただ、子どもの意見を聞くときに心配の声が上がるのは、よくあることです。 大人側の経験のなさや、子どもの能力や知識に対する認識不足もあるのだろうと思います。 (気候変動問題などの)活動をしている子どもたちは、非常によく知っていて、よく考えています。私は、子どもの権利委員会の活動を通じて、10歳前後の子どもの意見を聞くこともありました。自分の言葉で語ってくれて、子どもの発想にこちらがハッと気づかされることもありました。 記者 気候変動の対策では、将来にわたって悪影響を受けやすい子ども、若者の声を聞くべきだと、よく言われます。 大谷さん その通りですが、「子どもは将来だって言われるのが嫌だ」という子どもの声もよく聞きます。 子どもは子どもとして、今を生きています。 地球温暖化の影響も、既に受けています。例えば、最近でも、南アジアの国では、暑さで学校閉鎖になるケースもありました。 今、受けている教育や、健康に関わることが、その子の将来の人生の土台にもなってきます。子どもは、そういう特別な世代でもあるんです。 記者 子どもの意見を聞く上で、何に気をつけ、どんな準備が必要なのでしょうか。 大谷さん 子どもの権利条約では、子どもの権利として「意見を聴かれる権利」を定めています。国は自由に意見を言える機会を与えなくてはいけません。法律や政策の意思決定は、子どもが正式に関わることができないまま、大人たちが決めている状況があるからです。 今回の法案は、特に、子どもたちに大きな影響があり、子どもたちが強い関心を持っている地球温暖化に関するものです。 その審議の過程で、法案の中身を、子どもに分かるような言葉で説明し、子どもたちが意見を表明できる機会を作り、その意見をできるだけ取り入れることが政府や議員に求められます。参考人を招いた審議があった衆議院環境委員会=4月26日(衆議院インターネット審議中継から)
国会という公式な場が子どもを委縮させてしまうことを避けるのは難しいと思いますが、子どもが話しやすくする検討は必要だし、工夫はできると思います。 参考人の意見がどう扱われるのかという説明や、その意見は実際に反映されたのかどうかというフィードバックも必要です。 子どもは専門用語や、大人の世界の(意思決定の)仕組みを知らない場合がほとんどなので、大人よりも丁寧な対応が必要です。 ただ、先ほど挙げたことは、大人が相手でも大切なことです。子どもの権利を考える社会は、大人にとってもよい影響があると思っています。 記者 海外では、法律や政策に子どもの意見を取り入れることは進んでいるのでしょうか。 大谷さん 進んできています。 国連人権理事会では年に1回、子どもの権利をテーマに議論する日があります。数年前は、そこに子どもを参加させることに慎重な意見がありました。 けれど、2023年には、子どもがずいぶん参加して、国連人権高等弁務官と対等に発言していました。その様子を聞く各国の代表団にも子どもが加わっている国々がありました。 国レベルの子ども議会が設けられ、子どもたち同士で政策を議論する活動がなされている国もあります。 日本の取り組みがとても遅れているとまでは思いませんが、国レベルの子ども議会はありません。こども家庭庁やこども基本法ができたので、子ども議会をちゃんと作るべきだという意見が出てきたらうれしいと思います。 子どもの権利条約 1989年11月の国連総会で採択され、1990年に発効。18歳未満の子どもを大人に守られる存在だけでなく、権利を持つ主体と位置づけた。
「差別の禁止」「子どもの最善の利益」「生存・発達の権利」「子どもの意見の尊重」の4つを基本原則とする。
日本は1994年に批准しており、今年は30周年。時代にそぐわない理不尽な校則「ブラック校則」を改善するための根拠にもされている。2021年11月現在の締約国・地域は196。
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