礒崎初仁(いそざき・はつひと) 1958年、愛媛県生まれ。東大卒業後、神奈川県庁に入庁。農政部や企画部、大学院派遣などを経て、2002年から中央大法学部教授。著書に「地方分権と条例—開発規制からコロナ対策まで」など。
◆どんな指示でも閣議決定だけで出せてしまう
地方自治法改正案について語る中央大学法学部の礒崎初仁教授
—非常時に自治体に対する国の指示権を拡大する地方自治法改正案の審議が参院で始まった。 「指示権は不要だ。実際は役に立たない。コロナ禍での自治体の対応を調べたが、当初の国の方針は『感染者は全員入院』。これに対し、神奈川県は独自に、軽症者や無症状者は自宅で、中等症者は施設で療養という搬送基準を定めた。感染者が多く、医療機関や保健所がパンクする恐れがあったからだ。国が『全員入院』を指示していれば、市民の命は脅かされていたかもしれない。現場の実情に合わない指示は逆効果だ」 —国の関与が制限されてきた「自治事務」にも、包括的に指示できる規定が盛り込まれている。 「地方自治法の原則に反する。国が国民の安全に重大な影響を及ぼす恐れがあると判断すれば、どんな指示でも閣議決定だけで出せてしまう。国会が定めた法律を執行する立場であるはずの各大臣が、その国会を通さずに自治体が従うべきルールを定めてしまうような危うさがある」 —非常時に限れば、国からの指示を求める自治体もあるのでは。地方自治法改正案について語る礒崎教授
「国の責任で基本的な対処方針を定めることは大事だが、刻々と変化する事態では国の指示を待つより、現場が臨機応変に対応する必要がある。そもそも国が判断を誤る可能性も少なくない。実情に合わない指示でも真面目な自治体は従おうとして苦労するし、主体性のない自治体は指示に従うだけの思考停止に陥るという弊害さえ考えられる」 —では、国が果たすべき役割とは何か。 「自治体が望んでいるのは、指示ではなく支援。特に財政的な支援だ。コロナ禍では、休業要請に応じた飲食店などへの協力金の負担をどうするかに悩まされた。財源さえ担保すれば、指示ではなく、現行法にある『助言』や『勧告』でも自治体は応じるはずだ」 —参院審議への要望は。 「東日本大震災で大量のがれきが出た際、受け入れを巡り自治体間の利害が対立した。こうしたケースで、国が都道府県を超えて他の自治体に受け入れを指示することはあり得る。その場合でも、危機に直面した自治体からの『要請』に基づいた指示であるべきだ。5月に衆院総務委員会で参考人として意見を述べた際、そうした内容を含む修正案を例示した。参考にしてほしい」 鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。