経済安全保障上の機密情報を扱う民間事業者らを身辺調査するセキュリティー・クリアランス(適性評価)制度の導入を柱とした「重要経済安保情報保護法案」が17日、参院本会議で審議入りした。機密情報の指定範囲や適性評価を巡る制度の核心部分は、成立後に政府が定める運用基準で決めることになっており、詳細は固まっていない。政府による恣意(しい)的な指定やプライバシー権の侵害が懸念されるが、参院の審議でどこまで解消されるかは見通せない。(近藤統義)

参院本会議で答弁する岸田首相

◆「指定の範囲は法案成立後に…」

 岸田文雄首相は本会議で「外国政府との情報共有が円滑になり、国際共同研究の進展も期待できる」と法案の必要性を強調。与野党から情報指定が際限なく広がらないか問われたが「指定の範囲は法案成立後に閣議決定する運用基準で明確化する」と従来通りの答弁を繰り返した。  法案では「重要経済安保情報の指定や解除、適性評価の実施、適合事業者の認定」に関する運用基準を政府が定めることとしている。2014年施行の特定秘密保護法も同様で、秘密指定の具体的内容や身辺調査の項目はすべて運用基準で詳細に規定された。法案審議では政府の答弁が抽象的になり、今回の法案でも衆院側の審議で議論が深まらない要因になった。

参院本会議で「重要経済安保情報保護・活用法案」に関して趣旨説明する高市経済安保相

 立憲民主党の杉尾秀哉氏は17日の質疑で「運用基準に委ねるのではなく、法案審議の過程で明確な歯止めのルールを示すべきだ」と指摘。首相は正面から取り合わず「法案で国民の基本的人権を不当に侵害することがあってはならないと規定している」と述べるにとどまった。  衆院では、制度の運用状況を国会が監視する政府案の修正が行われ、与党や立憲民主党、日本維新の会などの賛成多数で9日に通過した。

◆「支障を及ぼす恐れ」判断基準が曖昧

情報法制に詳しい右崎正博独協大名誉教授(憲法学)の話   運用基準を閣議決定すれば何でもできるんだというやり方は議会制民主主義の軽視そのものだ。岸田政権は次期戦闘機の日本から第三国への輸出方針を閣議決定したが、憲法解釈の変更を閣議決定して集団的自衛権の行使を容認した安倍政権と変わらない。  特定秘密とも共通するが「漏えいが安全保障に支障を及ぼす恐れがある」ということをどういう基準で判断するのか曖昧だ。運用基準や政令で対象を具体化するという重要経済安保情報の漏えいには罰則が科される。政令による処罰を禁じる憲法73条6号に抵触する可能性があるほか、処罰の対象行為をあらかじめ法律で定めなければならないという憲法31条が求める「罪刑法定主義」にも反する。  適性評価は本人の同意が前提というものの、家族や同居人の国籍なども調べられる。評価の結果や調査を拒否した事実も会社に通知され、憲法19条の思想信条の自由を侵害する可能性がある。憲法13条の幸福追求権に含まれるプライバシー権に対する重大な脅威になることは疑いない。  参院で議論が深められることを期待したい。

 重要経済安保情報保護法案 防衛や外交など4分野の情報保全を目的とした特定秘密保護法の経済安保版。半導体など重要物資の供給網や重要インフラに関して国が保有する情報のうち、流出すると安全保障に支障を与える恐れがあるものを「重要経済安保情報」に指定。重要情報を扱う人の身辺調査をする「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」制度を導入する。情報漏えいには5年以下の拘禁刑などを科す。



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