目次

  • 事件の現場 奈良市の献花台では

  • 山上被告の近況と発言

事件の現場 奈良市の献花台では

おととしの7月8日、奈良市の大和西大寺駅前で参議院選挙の応援演説をしていた安倍元総理大臣が銃撃されて死亡した事件では、無職の山上徹也被告(43)が殺人や銃刀法違反などの罪で起訴されています。

事件から2年となる8日、現場近くには自民党の奈良県連が用意した献花台が設けられ、朝から多くの人が訪れ、花を手向けています。

事件が起きた午前11時半ごろには、訪れた人たちが現場で黙とうをささげました。

献花台は去年もこの日に設けられましたが、訪れた1人が拳銃に似た棒を振り上げる騒ぎがあったため、ことしは周囲に鉄製の柵が設置され、自民党の県連による手荷物検査も行われています。

捜査関係者によりますと、山上被告は捜査段階の調べに対し、母親が多額の献金をしていた「世界平和統一家庭連合」、旧統一教会に恨みを募らせた末、事件を起こしたなどと供述していたということです。

この事件は裁判員裁判で審理されるとみられ、証拠や争点などを絞り込む「公判前整理手続き」が行われていて、関係者によりますと、被告が所持していた手製の銃が法律が定める「拳銃等」にあたるかどうかなどが争点になる見通しだということです。

裁判の日程は決まっておらず、弁護団は争点の絞り込みなどに時間がかかっているとして、初公判は来年以降になるという見方を示しています。

献花に訪れた人たちは

東京から献花に訪れたという30代の男性は、「長く総理大臣を務めていた方が亡くなるショッキングな事件で、この2年はあっという間に感じました。『安らかにお眠りください』と声をかけました」と話していました。

献花に訪れた奈良市の40代の女性は、「どんな理由があっても人の命を奪ってはいけないと思います。山上被告がどういう思いで事件を起こしたのか、今後開かれる裁判の中でしっかり聞きたい」と話していました。

また、奈良市の50代の女性は、「事件が起きた時、大和西大寺駅の改札付近にいました。事件のことを思い出してしまうので現場にはしばらく近づきませんでしたが、ニュースで献花台が設置されていると知り、思い切って来ました」と話していました。

山上被告の近況と発言

山上被告は去年、殺人と手製の銃を所持するなどした銃刀法違反、それに国の許可を受けずに武器を製造した武器等製造法違反などの罪で起訴され、現在、大阪拘置所に勾留されています。

被告の弁護団によりますと、ふだんは読書などをして過ごし、一般の人などから寄せられた手紙にはすべて目を通しているということですが、接見は弁護士と一部の親族以外は拒否しているということです。

奈良地方裁判所ではこれまで、証拠や争点などを絞り込む「公判前整理手続き」が4回行われ、被告も1回目を除いてすべて参加しました。

みずから発言することはないものの、裁判所と検察、弁護士の間のやりとりを真剣な様子で聞いているということです。

関係者によりますとこのうち、7月3日に行われた4回目の手続きでは、被告が所持していた手製の銃が法律が定める「拳銃等」にあたるかどうかなどについて議論が交わされ、被告は手続きの後、弁護士に「興味深いと感じた」などと話していたということです。

また、事件の報道や、旧統一教会をめぐる解散命令請求などの一連の動きについても新聞などで把握しているといいます。

6月20日に弁護士が接見した際には、「事件によって現在のような状況になるとは思っていなかった」と話したほか、親が信者であるいわゆる「宗教2世」について「事件が2世の人たちにとってよかったか悪かったか分からない」とも話していたということです。

「宗教2世」の当事者たち “今も不安は解消されていない”

安倍元総理大臣が銃撃された事件をきっかけに、親の信仰が理由で、苦難に直面してきたとされる「宗教2世」の存在が広く知られるようになりました。

しかし当事者たちは、「今も不安は解消されていない」と語っています。

過去の借金が膨らんで…

NHKの取材に応じた40代の男性は、両親が旧統一教会の熱心な現役信者で、男性が子どものころから、教団への高額の献金を続けました。

献金を工面するため多額の借金を重ね、税金の支払いを滞納することもあり、家庭は困窮していたといいます。

教団は2009年にコンプライアンスを強化したとし、以降は過度な献金はほとんど行われていないと説明しています。

しかし男性は、「両親は自分が知るだけでも、2012年や2013年までごろまで、先祖の怨念を取り払うためといった名目で、激しい献金をしていました。2009年のコンプライアンス宣言を機に緩やかになった面はあったかもしれないが、改善されたということは全くないと思います」と話しています。

男性は去年の秋まで、自分の妻子とともに両親と同居していましたが、借金の返済に苦しめられる中、両親がさらに献金を続ける考えを示したことから、やむをえず実家を離れ、今は妻子と暮らしています。

男性は、「過去のむちゃくちゃな献金のしわ寄せがきて行き詰まってしまう家が、今後どんどんでてくると思います。なぜこうなったのか、教団幹部は謝罪ももちろんですが、真摯に振り返ってほしいです」と話しています。

“変化”には個人差も

6月末、東京都内の飲食店で、「宗教2世バー」という会合が開かれました。

自らの生い立ちや境遇、社会との分断がこれからますます広がってしまうのではないかという不安。

2世たちが、ふだん打ち明けられない悩みを共有できる居場所づくりを目的に、数か月に一度、昼間の飲食店を貸し切って開かれていて、この日は、旧統一教会や、エホバの証人の信者の親を持つ2世たちが10人ほど参加していました。

参加した2世たちは、「自分たちの問題が社会に認識されたことで、誰にも理解されないと以前は感じていた心の苦しみを周りが心配してくれたり、相談したりできるようになった」とか、「信仰していた当時患った精神疾患が今も残り、仕事探しに苦労している」などと、それぞれの近況を報告し合っていました。

この日の「2世バー」を主催したエホバの証人の2世のまっきーさんは、『安倍元総理大臣が銃撃された事件のあと、どんな変化があったか』についてSNSでアンケートを実施し、現役信者も含めて120人近い2世から回答が集まりました。

アンケートでは、「友人に対して、自分が宗教2世であることを話せるようになった」とか、「自分の生きづらさの原因が、親からの宗教の強制であったことに気づくことができた」などと“変化”を前向きにとらえて報告する人が比較的多かった一方、「悪い噂を流されたり、メディアで事実に基づかない報道をされたりした」とか、「信仰を続ける親との関係が、以前よりも悪化した」などと回答した人もいて、この2年間の“変化”の状況や受け止めには、個人差があることを感じさせる結果でした。

まっきーさんは、「宗教2世という存在が、社会の共通認識として広がり、理解されるようになったことはとても大きな事ですが、宗教を離れてから途方に暮れる2世たちも多くいます。支援のあり方について、国や自治体が模索を続けてほしいです」と話していました。

  • 注目

旧統一教会幹部インタビュー “改革”の現状 被害への認識は

旧統一教会=世界平和統一家庭連合の幹部がNHKの単独インタビューに応じ、過度な献金の勧誘を防ぐ対策など教団が進める「改革」の状況や、裁判所での審理が続く解散命令請求への対応などについて語りました。

また、信者が個人で韓国に渡り、献金を行っている総額がひと月あたり1億円を超えていることを初めて明らかにした一方、教団として財産を移転させるつもりはないと強調しました。

献金総額 “3分の1に減った”

安倍元総理大臣が銃撃された事件から2年を迎えるのを前に、旧統一教会=世界平和統一家庭連合の幹部、勅使河原秀行氏が、7月1日、NHKの単独インタビューに応じました。勅使河原氏は教団の「教会改革推進本部」の本部長を務めています。

教団は献金をする信者の家庭事情や経済状況への配慮が不足し、指導が行き渡っていなかったとして、過度な献金の勧誘が行われないようにするための対策を進めていると説明してきました。

対策の現状について勅使河原氏は、「10万円以上の献金に対して『確認書』を作り、受領する際に家族の生活に支障がないか、借金をしていないかなどを必ず確認するようにしていて、100%には至らないが、94%の献金で実施された。受領書の作成もかなり徹底されている」などと述べました。

献金による収入総額については、「教団側の判断によって、献金の受領をお断りすることもある」などと述べ、安倍元総理大臣が銃撃された事件の前の3分の1程度に減っていると説明し、「この状況がずっと続けば、教団施設の数はかなり減らさないと維持できないと思っている」などと話しました。

“謝罪という言葉からは距離を置かなくてはならない”

解散命令請求が行われたあとの去年11月、教団の田中富広会長が会見で、「つらい思いをしてきた2世や国民の皆様に心からおわび申し上げる」と述べた一方、「謝罪という言葉とは距離を置かないといけない」などと話したことをめぐり、NHKは、教団としての「謝罪」への考えについて改めて問いました。

勅使河原氏は、「田中会長がおっしゃったおわびの意味は、基本的には道義的な責任で、献金を受け取るときの配慮不足や、つらい思いを吐露している人たちに対して申し訳ないという気持ちを表明したのだと思う」とした上で、「では謝罪となると、私たちはどこまでも宗教であって、人をだましてお金を集めようとしたり、私腹を肥やすために献金を募ったような人間は1人も知らない。法的責任から見たときに、謝罪という言葉からは距離を置かなくてはならないということではないか」などと述べ、「謝罪」についての教団の考えに変化がないことを伺わせました。

また、銃撃事件以降の元信者などからの返金要請への対応を継続していて、これまでに790件あまり、あわせておよそ55億円を支払ったことを明らかにしました。

“信者個人が韓国で献金 総額ひと月1億円超”

解散命令が確定するまでの間、教団が被害者救済にあてるべき財産を海外や別の団体に移転させるおそれがあると指摘され、国会では、国などが裁判所に解散命令を請求した宗教法人の資産状況を把握するための特例法が成立しています。

勅使河原氏は、「特例法によって3か月に1度、財務諸表の提出を求められている立場であり、疑われるリスクのあることはする理由がない」と述べ、財産の移転などはこれまでも行っていないし、今後も行うつもりはないと強調しました。

その一方で、信者が個人で韓国に渡り、教団施設などに直接、献金を持参する行為が続いていて、金額の合計がひと月1億円を超えていることを初めて明らかにしました。

韓国では先祖の行いで生じた「中心霊」と呼ばれる悪霊を取り除くためという名目で献金を集める動きが最近、活発化していることが、NHKの取材でわかっています。

同じような献金集めが日本で行われていないのかという質問に対しては、「韓国では今、お祈りを非常に重視する流れがあり、中心霊は副次的な要素だと思うが、日本では、病気や困りごとと霊的なことを結びつけると、法律に抵触するおそれがあるので、そういう言い方をしてはいけないと文書を出して戒めている」などと述べました。

解散命令請求について

教団への解散命令が裁判所に請求されていることについて、勅使河原氏は「私たちはどこまでも信教の自由の問題だと考えている。私たちは日本でなんら刑事罰を受けていないし、法の下の平等という、日本の法治国家としての尊厳は裁判所がしっかり守ってくれると信じたい」と述べる一方、仮に解散命令が確定した場合の教団や信者への影響については、「宗教法人として解散しても、任意団体として残り、税金を払えばいいだけだという声もあるが、信者たちが集まってきた施設はすべて渡さなくてはならなくなる。今でさえ、信者の家の子どもが学校で名指しをされたり、車や花など物を売ってもらえなかったりという問題が起きているのに、解散命令が確定すれば、我々が反社会的勢力だという誤ったレッテルを貼られ、信教の自由を貫くことは難しくなるのではないか」などと話し、教団として裁判所で反論を続けていく考えを示しました。

識者 “被害者救済 法律の見直しを”

安倍元総理大臣が銃撃された事件をきっかけに、国会では、旧統一教会の被害者救済に向けた議論が始まり、
▼おととし12月に悪質な寄付の勧誘行為を禁止することなどを定めた法律が、
▼去年12月には、国などが解散命令を請求した宗教法人の資産状況を把握できるようにすることや、被害者が収入などに関わらず、民事裁判の支援を受けられるようにすることなどを定めた法律が成立しました。

ただ、元信者らの支援を行っている弁護団からは、「法律の内容が不十分だ」とする意見が出ているほか、NHKの取材に答えた2世たちからも、「窓口に相談しても問題の解決につながらない」などといった声が聞かれました。

国会の法整備の議論の過程で与党側の参考人としても招致された中央大学の宮下修一教授は、「民事裁判の支援などを行う法テラスが、現状では被害者からの相談に十分に対応できていない印象があり、体制などの検証が必要だと思う。不当な寄付の勧誘に対応する消費者庁の部局の人数も十分に確保されているとはいえないのではないか」などと述べ、運用面の課題を指摘しました。

また、
▼不当な寄付の勧誘を受けた人の家族が取り返すことができる金銭の範囲や手段が限られていること、
▼資産状況を把握する法律が3年の時限立法となっていて、教団の財産の包括的な保全に踏み込んでいないことなどに触れて、
「法律ができなければ改善することもできないので、立法自体には意味があったと考えているが、現在の法制度は被害者をただちに救済できる形にはなっていない。被害者が今も実際に苦しんでいるという現実があり、できるだけスピーディーに、かつ慎重に意見を聞きながら、より良いものに見直していく必要がある」と話しています。

警察庁 要人警護計画の75%で修正の指導

事件のあと警察庁は、従来の要人警護のあり方を大きく見直し、地元の警察の警護計画について事前にすべて報告を受ける運用を開始しましたが、各地の警察がこの2年間に作成した要人警護計画の75%について、警察庁が修正を指導していたことがわかりました。

おととしの7月8日、奈良市で選挙応援演説中だった安倍元総理大臣が銃撃されて死亡した事件では、警察庁が当日の警備について検証結果をまとめ、元総理大臣の後方の警戒が不十分だったために容疑者の接近を許したことや、奈良県警が作成した警護計画が過去のものを安易に踏襲し、後方の危険性を見落としていた上、十分な数の警察官を配置せず、指揮官の役割も明記されていないなど、不備があったと結論づけました。

警察庁は、従来の要人警護のあり方を大きく見直し、各地の警察が作成した警護計画案について、事前にすべて報告を受け、審査する運用を開始しました。

警察庁によりますと、おととし8月から6月までに各地の警察からおよそ6300件の警護計画案の報告を受け、このうち75%にあたるおよそ4800件について、計画の修正を指導したということです。

修正の内容は、
▼警察官の配置や人数、
▼警護対象の要人が危険を回避する際の動線の確保、
▼聴衆の避難誘導方法などについてだったということです。

去年4月には和歌山市に選挙応援に訪れた岸田総理大臣の近くに爆発物が投げ込まれる事件も発生し、警察は要人警護に専従であたる人員を全国で増やすなど、体制の拡充を進めています。

また演説会の主催者などに協力を要請し、手荷物検査や、金属探知機を使った検査を行うこと、聴衆と警護対象者との距離を確保することなど対策を強化しています。

警察庁の露木康浩長官は、「2年前の事件はまさに痛恨の極みだったが、1年足らずの間に岸田総理大臣に対する襲撃事件の発生も許してしまった。警護中の要人に対する襲撃を許すことはもはやあってはならない。1つ1つの事例を教訓に不断の見直しを行い、警護の高度化を図りたい」と話しています。

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