2024年の東京都知事選挙が終わった。選挙の争点や有力候補者たちの動向よりも、アウトローな選挙ジャックばかりが目立った。4月の衆院補選に引き続き、エスタブリッシュメントと呼ぶべき日本の政治家諸兄は、公然と行われる選挙ジャックへの抑止力を持ち合わせることなく、足もとをすくわれるがままやり過ごすという実情も露見した。
気を取り直して、選挙結果を振り返ろう。女性のスター政治家同士の激戦かと思われたが、小池百合子氏の圧勝だった。中でもハイライトは、石丸伸二氏のサプライズとも言うべき健闘だろう。
私が代表を務める社会調査研究センターでは、7月7日の投開票日に「dサーベイ」による投票行動調査を実施した(※1)。まずはその結果をご覧いただきたい。
キャッチオールで強かった小池氏
若年層、支持なし層に浸透の石丸氏
内閣不支持層でも劣勢だった蓮舫氏
上図は、年齢別の投票行動を示している。(1)小池氏がキャッチオール、すなわち全年代でまんべんなく支持を得ていること、(2)50代ぐらいまでの比較的若い年代では、石丸氏が小池氏に次いでおり、蓮舫氏は石丸氏にも大きく離されていること、(3)わけても、18~29歳までの若年層では、石丸氏が小池氏に迫る支持を集めていることなどが確認できよう。男女別でみると、男性は小池氏40%、石丸氏27%、蓮舫氏18%、女性は小池氏52%、石丸氏18%、蓮舫氏19%となっている。
下図は、支持政党別の投票行動を示している(政党名や支持政党なしの下のカッコ内の数値はそれぞれの比率)。自民党や立憲民主党の支持者の動向はグラフの通りである。
選挙結果を大きく左右する支持政党なし層に注目すれば、こちらも小池氏が最も多くの支持を得ており、次いで石丸氏、離れて蓮舫氏の順となっている。さらに、投票行動調査で同時に聞いた岸田内閣への評価は、支持18%、不支持67%であった。そのうち、大多数を占める内閣不支持層の投票先は、小池氏34%、石丸氏28%、蓮舫氏24%となっており、岸田政権に対する評価とは別次元の選択であったことが確認できる。また、同時に行われた都議補選では、自民党が2勝6敗、候補者調整をした立民・共産が1勝6敗と、国政の与野党はともに惨敗した。
ちなみに、蓮舫氏の劣敗については、立憲民主党の特性(言い換えれば、弱点そのもの)を背負った、典型的な立憲民主党候補者であることに尽きるだろう。高齢者に偏った「若低-老高型」の支持構造ゆえに、勝利の必須要件は、無党派層の6,7割の支持を得ることにほかならない。
「無縁化」社会で進む投票率の低落
各候補の得票に続いて、投票率に触れなければならない。今回の投票率は、前回(2020年)から約5ポイント増の60.62%であった。前回は、コロナ禍という悪条件に、小池氏の再選は織り込み済みという情勢も加わり、前々回(2016年)を5ポイント近く下回った。今回はコロナもクリアされ、9つの都議補選も同時に実施されたが、大幅な上昇とまではいかなかった(※2)。
投票率については、年齢別にブレークダウンした時、留意すべき傾向が存在する。下図を参照されたい。前々回と前回とを比較すると、60代、70代の中高年層で投票率が大きく低落した。全体の低下度が4.7ポイントであるのに対して、60~64歳はマイナス10.1ポイント(以下ポイント省略)、64~69歳は11.2、70~74歳は11.4、75~79歳は10.4と顕著であった。しかも、18~29歳までの若年層の投票率は、18歳のプラス8.8を最高に20歳の5.6などいずれも上昇しているのである。
前回都知事選での中高年層の大幅な投票率低下は、コロナの影響だろうと思われるかもしれない。しかしながら、コロナから解放された23年夏の埼玉県知事選でも、投票率が前回(2019年)から大きく低落し、その度合いは70~79歳のマイナス16.9を最大に、60~69歳のマイナス15.2、50~59歳のマイナス11.9と、中高年層で突出している。さらに、国政選挙に関しても、さいたま市の2022年参院選の投票率は52.39%と2019年の48.11%から若干上昇したが、年齢別にみると、18~29歳から40代くらいまでは上がったものの、60代は横ばい、70代は逆に減少している。
人口のボリユームゾーンに相当し、なおかつ投票率の最も高い中高年層での顕著な低落現象は、すでに各地の地方選挙で見受けられるが、地域の差なく大都市部でも共通するようになったのか。とすれば、日本の選挙を支え続けてきた右肩上がりの年功構造、すなわち、予定調和的な加齢効果が消滅しつつあることを意味する。今回の年齢別投票率データの公表が待たれよう。
「選挙ばなれ」というと、選ぶ側である有権者の参加や関心ばかり話題になるが、選ばれる側の「候補者の選挙ばなれ」も相当深刻な問題である。無投票当選に象徴される、議員のなり手不足は、23年の統一地方選でも目立った。有権者の選択の機会である選挙自体が成り立たないのだから、選ぶ側に責任は及ばない。
有権者を消費者に見立てる病理
中高年層における投票率の低落や候補者のなり手不足は、いずれも、無縁化に総称される地域社会の不可逆的な変貌を要因としている。それゆえ、立て直しのすべを探索せよと言ってもはなはだ難しい。
その上、今回の「選挙ジャック」が重なる。SNSで情報と映像が飛び交い、マスメディアが追っかけで拡散し、瞬時にネイション・ワイドとなるイベント(選挙)において繰り広げられるアクターまたアクトレス(候補者)たちの場外バトルや反則パフォーマンス。選挙の立候補者不足をどう解消するかとは逆に、際限なく登場する候補者たちの傍若無人な有り様をどうコントロールすべきなのか。選ばれる側の惨状は、取り返しのつかない地点まで到達してしまった。
処方など思いもよらないが、病因ならば想像はつく。選挙の過程を市場に置き換え、マーケティングよろしく戦略やパフォーマンスを指南・展開する昨今。有権者を消費者に見立てた「マーケティング選挙」のなれの果てが、今回の選挙ジャック症状のように思われる。
有権者は消費者ではない!
(※1) ^ 投票行動調査は、東京都の有権者を対象に実施し、当日、期日前を合わせて今回の都知事選で投票した2,588人から回答を得た。「dサーベイ」とは、NTTドコモのdポイントクラブ会員を対象とするWeb(インターネット)調査のこと。社会調査研究センターとNTTドコモが共同開発した「dサーベイ」により、全国の18歳以上の約6,800万人を母集団としたランダムサンプリング(無作為抽出)調査が実施できるようになった。社会調査研究センターでは、すでに、21年衆院選、22年参院選、23年統一地方選など、各種の選挙調査で蓄積したデータを解析し、地域・性・年代別の人口構成に合わせてメールを配信する「配信設計モデル」を構築した。22年10月からは、内閣支持率などを検出する世論調査も「dサーベイ」に切り替え、「SSRC全国世論調査」として定例実施している。
(※2) ^ 告示前から投票日直前までの間、社会調査研究センターが5回にわたり実施した情勢調査では、支持政党なしの比率は約6割を占めていた。一方、投票行動調査における支持政党なし比率は49%であった。
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