厚生労働省の部会で、紙で交付されてきた介護保険証のペーパーレス化が議論されている。介護情報のデータ基盤整備に合わせマイナンバーカードとの連携を図ることで、効率化や利便性の向上が期待できる一方、自力で取得手続きができない高齢者や情報保護への懸念から、慎重な議論を求める声も上がる。(曽田晋太郎)

◆厚労省担当者「どういうやり方がベターかこれから検討」

マイナンバーカードの見本

 8日の社会保障審議会介護保険部会。すでにマイナンバーカードと介護保険証を一体化する方針が示されている中、利用者や事業者への配慮といった実現に向けた検討課題などが議論された。  現行の介護保険証は、65歳以上の第1号被保険者全員と、40〜64歳の第2号被保険者でがんやパーキンソン病などの特定疾病により介護が必要な人らが持つ。所持者は4月末時点で計約3600万人。要介護認定の際の添付や、ケアマネジャーによるケアプラン作成、介護事業所のサービスを利用する際などに提示が求められる。  2040年ごろに向けて日本の高齢者人口はピークを迎え、要介護認定率が高い85歳以上も増える。国は介護サービスの需要増大や多様化に加え、介護人材不足も見込まれるとして、情報通信技術(ICT)などを活用した業務の効率化が喫緊の課題としている。  そこで介護保険証のペーパーレス化で自治体が保険証を郵送する手間を省き、被保険者がサービスを利用する時に複数の書類の提示を不要とするなど、業務効率化や利便性向上を図る。2026年度以降、全国的に紙の保険証の機能をマイナンバーカードで使えるようにする計画だ。

介護保険証のペーパーレス化の方向性や検討課題を示す厚労省部会の資料

 この日の部会資料には、マイナンバーカードを持たない要介護認定者に対し、「例えば被保険者資格情報が記載された書面を交付する」などとある。紙の介護保険証を将来的になくす地ならしのようにも見えるが、厚労省は「廃止については一切言っていない」と否定する。担当者は「ペーパーレス化に向けた課題を整理し、どういうやり方がベターかこれから検討していく」とする。

◆情報管理リスクに導入コスト

 介護保険部会の委員で、公益社団法人「認知症の人と家族の会」(京都市)の花俣ふみ代・副代表理事は「何でもかんでもデジタル化する政府。ゆくゆくは紙の保険証をなくすのではないか。マイナンバーとの一体化ありきで、物事が進んでいる感じが否めない」と危ぶむ。  花俣さんによると、認知症の人は自力でカードを取得するのに高いハードルがある。「本人が気づかないうちに、誰かが被保険者の情報にアクセスできてしまうといったリスクもあると思う。介護事業所がカードの読み取り機を導入、運用する経費もどうなるのか」と疑義を呈す。「業務効率化の必要性は理解している」としつつも、「一つ一つの課題を丁寧に議論し、時間をかけて移行しないと無理があるのではないか」と話した。

厚生労働省

 マイナンバーカードを巡っては現行の健康保険証が12月に廃止され、任意のはずの取得の「実質義務化」と批判も上がる。介護保険証のペーパーレス化について、マイナンバー制度に詳しい清水勉弁護士は「強引に推し進めれば、介護サービスを受ける高齢者やカードを預かる事業者が、情報を管理しきれず、守れなくなるセキュリティー上のリスクが高まる」と強調し、拙速に進めることがないよう国に求めた。 

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