東京で開かれていた日本と太平洋の島しょ国などによる「太平洋・島サミット」は18日、気候変動や海洋分野などでの協力事項を盛り込んだ首脳宣言と共同行動計画を採択して閉幕した。東京電力福島第1原発の処理水海洋放出に関し、科学的根拠に基づく対応の重要性で一致し、島しょ国側は「透明性ある真摯(しんし)な説明の継続」を求めた。岸田文雄首相は参加国との2国間会談などで「絆の強化」を繰り返し強調し、国力が低下する日本の影響力維持に腐心した。

◆中国を念頭に「現状変更の試みに反対」と首脳宣言に明記

ミクロネシア連邦のシミナ大統領(左から2人目)と会談する岸田首相(右から2人目)=18日、首相官邸で

 外務省によると、処理水放出について参加国から懸念の表明などはなかったという。岸田首相は共同記者会見で「(島しょ国の)安心感を高めていくと説明した」と話した。  島しょ国が「存続に関わる唯一最大の脅威」と位置づける気候変動について、岸田首相は日本も危機感を共有して防災対策への支援強化や脱炭素化の推進に取り組む考えを示した。また首脳宣言には、この地域で存在感を増す中国を念頭に「武力の行使や威圧による一方的な現状変更の試みに強く反対」と明記した。

◆日本の影響力低下は否定できなくなってきた

 岸田首相は開幕の16日以降、サミットのため来日した首脳と個別に会談。サモアへの気象衛星「ひまわり」を利用した観測データの提供や、フィジーへの準天頂衛星「みちびき」による防災情報の共有、パプアニューギニアやバヌアツへの漁業調査・監視船の供与など各国に応じた協力を打ち出した。  日本は1997年から3年ごとに太平洋島しょ国の首脳らを集めたサミットを開催し、今回が10回目。近年は中国の海洋進出などに伴ってこの地域への関心が高まり、米国や中国、韓国、台湾、インドも同様の会合を開催する。外務省幹部は「首脳らに呼び掛けても、簡単に来てくれる時代ではなくなった。島しょ国側に、今までになかったよそよそしさがある」と日本の影響力低下を認める。

◆大国から距離を取る島しょ国、バランス重視

会談前にナウルのアデアン大統領(左)と握手する岸田首相=18日、首相官邸で

 一方、島しょ国側は大国間の「バランスに配慮」(外務省幹部)する。ソロモン諸島のマネレ首相は5月の就任後、オーストラリアを訪問し、今回の訪日前には北京を訪れて中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席とも会談した。共同議長を務めたクック諸島のブラウン首相は閉幕後、記者団に「中国は、インフラ建設投資や気候変動対策などの分野で、多くの島しょ国にとって重要なパートナーだ」と語った。  太平洋地域に詳しい大阪学院大の小林泉教授は「島しょ国は、中国にも米国やオーストラリアにも近づきたいとは考えておらず、大国間対立から距離を取ろうとしている」と指摘する。(中沢穣) 

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